Act.7


「ルルーシュ、スザク、今日はあなたたちが主役なんだから今日は楽しんでよね」
ミレイの言葉にルルーシュは苦笑いをする。自分たちが主役というならば、なぜ今自分が料理を作っているのだろうか。しかし疑問に思ったところで、後ろで指示を出している生徒会長には軽く言いくるめられてしまうのだろう。ルルーシュは、ミレイに見つからないようにため息をついてからスープの出来具合を確かめる。程よい塩加減に満足していると、隣の調理台で生クリームをあわ立て終わったスザクと目が合う。
ニコリと微笑むスザク。どうやらスザクも同じ事を考えていたのか、今の状況について視線だけで会話が出来た気がする。
スザクもようやく戻った日常であるこの状況を楽しんでいるようだ。
「スザクー。それ終わったらそこの野菜、星型に切って」
ニコニコと笑いながら指示を出すミレイ。
「はい、会長」
律儀に返事をしてスザクはにんじんを星型に切っていく。
「星じゃないのは他で使うから、こっちに入れてね」
スザクは別のボールを受け取って、きれいに分けて入れていく。
「じゃあルルーシュは、あとは会場のほうを頼むわね。きっとシャーリーがひとりで困ってるはずだから」
有無を言わさない命令にルルーシュはもう一度苦笑してからいってきますといって、制服の上に着ていたエプロンを脱ぐとキッチンをあとにした。

***

今日は、昨日まで3日間行方不明になっていたスザクと自分の生還記念パーティーらしい。お祭り好きのミレイにしては、やや普通なパーティーではあるが、それでも自分たちで料理を作って、生徒会室はパーティー用に普段は使わない来賓用のダイニングセットが持ち込まれている。テーマは「贅沢な食卓」。ミレイ自身貴族なのだが、今回は貴族のような豪華なセットでのパーティーにするようだ。食器も、それに合わせて銀食器でそろえて、なかなかの徹底ぶりだ。まあ、自分たちで料理を作るのは経費の削減というわけではなく、それを楽しむためだったようだが。
ルルーシュが生徒会室に顔を出すと、中にいたシャーリーが困ったような表情を明らかにほっとしたものへと変える。
「ルル、良かった!みんな、料理担当になっちゃってたらどうしようかと思ってたよ。」
「そうだろうと思って、会長が、こっちにいけって」
「あはは。ルルは今日の主役なのにね」
ミレイやシャーリー達生徒会メンバーはルルーシュのことを、ルルーシュと呼んだりルルと愛称で呼ぶ数少ない友人だ。
それでも、あまり食事を一緒にとることもなかったのだがスザクが来てからなんとなくルルーシュもみんなと一緒に食事をすることが多くなってきた。皇族であるルルーシュは学園内ではかなり近寄りがたい存在だったらしい。
ミレイのように、学園の中では身分は関係なく、誰でもこき使うという強い性格の持ち主ならば、気にはしなかっただろうが。
「でも、本当にみんな心配したんだよ。まさか課題用に下りた星が中華連邦の支配下に落ちてたなんて信じられなくて・・・本当に・・・無事でよかったよ」
「心配かけてごめん。だが、あの星も、またブリタニアの支配下に戻ったようだよ。軍もそこら辺は抜かりはないはずさ」
ルルーシュは、今回敵国の軍艦を殲滅した第二皇子、シュナイゼルの顔を思い出す。優しそうな風貌とは裏腹に、その戦略はすきがないのだ。口では、客人には退場願ったとか言っていたが、相当容赦なく痛めつけたに違いない。
ブリタニアには中華連邦やEUといった敵国が存在する。今回はたまたま、敵の支配下に落ちた星に、そうとは知らずにルルーシュとスザクは学園の課題のため降りることになったのだが、ナナリーの願いによってあの男に助けられたのは本当に不覚だったと思う。
この借りは、どのタイミングで何を要求されるか、今から考えるだけで頭が痛い。皇族ということもあって、特殊な感覚論から言えば、一応シュナイゼルは自分の兄といえなくもない(認めるつもりはないが)男だが、年が離れているためか、ルルーシュのことをいつも子ども扱いする。もちろん、十歳という年齢差のため、自分がまだ歩き始めた頃には母親の離宮に遊びに来ていた者から見れば、まだまだ子供に見えるのだろうが納得できるものでもない。
「そうそう!アヴァロンだっけ?会長の婚約者さんが乗ってるっていう?どんな人なのか気になるよね」
内心、闘志を燃やしていたルルーシュだったが、シャーリーは第二皇子ではなく、もっと別の人物が気になるようだった。言われて、思い出したくもなく変人のことも思い出してしまう。
「ああ。アヴァロンも来ていたな・・シャーリーあとは食器を並べればいいのかな?」
変人の科学者。一瞬だけアヴァロンに搭乗した際に会ったが、ルルーシュは記憶の中からその人物を消去してから、シャーリーにどこまでセッティングが進んだか聞く。
「実は、食器並べたあとに、その花瓶に花をいけなくちゃいけないんだけど・・・わたしそういうのよくわからなくって・・」
「じゃあ適当に花を入れておくよ。会長もそんなに花の向きなんて気がつかないさ」
「うん。じゃあお願いするね、ルル」
シャーリーはにこっと少しだけ照れたように笑ってから、テーブルクロスの上にスプーンなど食器をきれいに並べていく。
ルルーシュもテーブルの真ん中に豪華な花瓶を置いてから、端に用意されていた花束を手に取る。花の優しい香りに、自然と微笑みを浮かべる。
その香りはなんとなく、遠くアリエスの離宮を思い出すのだった。

***

「かーんぱーいっ」
贅沢な食卓と言うだけあってダイニングテーブルにところ狭しと並べられた料理を前に、ミレイの声が上がる。
結局はいつものお祭りのようなお茶会になりかけてもいるが、作った料理はかなり出来がいい。
「このスープ、ルルーシュが作ったの?美味しいね」
料理は最後まで見れなかったが、途中で納得のいくものだったこともあって、スープはスザクも気に入ってくれたようだ。
「ああ。実は隠し味があるんだ、しその葉を・・・」
ルルーシュは、うれしそうに笑った。そんなルルーシュの表情に周りのみんなが少しだけ固まる。
「ルルちゃんってば、いつの間に大人になっちゃったの??」
ミレイのわけの分からない質問にルルーシュは疑問を浮かべる。
自分はなにか変なことを言ったのだろうか。
「たかが遭難生活三日間で何の変化があるって言うんです?」
「だって・・ルルちゃんのそんな表情初めて見るわ」
「表情・・・?」
自分で自分の変化に気づいていなかったルルーシュは、無意識にスザクに心を許しすぎてしまっていることを悟られてしまったと気がついて狼狽する。
「あはは。そういえば、ルルーシュとは恋人同士になったんだったよね?」
と、追い討ちをかけるかのようにスザクが笑って言う。
しかしその言葉にルルーシュは少しだけ冷静さを取り戻した。
「恋人!やっぱり・・」
ミレイが色めきたつが、ルルーシュは一笑に付す。
「そういう設定でいたんですよ。地上世界では男同士は禁忌だそうですよ」
「ふーん。いいじゃなーい。禁忌の恋!燃え上がるわー」
「スザクとルルーシュなら恋人同士って言われても確かに違和感ない気もするけどさ。なんで、男同士だと禁忌なの?」
リヴァルが聞くと、シャーリーも同様に不思議そうな顔をしている。
これが、遺伝子操作で生まれる生粋のブリタニア人の反応なんだろうな、とスザクは少しだけ居心地悪さを感じてしまう。スザクのように地上人からブリタニア人になった者にはない感覚なのだ。
「地上世界では、恋愛は男と女でして、子をなすのが普通らしいからな」
ルルーシュが簡単に説明すると、二人は純粋に驚いたようだ
「なんで?地上世界には人工子宮ないの?」
シャーリーの疑問にスザクが答える。何しろ、3年前まで生粋の地上人なのだ。
「少なくとも僕のいた星では赤ちゃんは女の人が生んでたかな。よっぽどのことがない限り人工子宮というものを使う人はいなかったと思う」
「うへー。じゃあ、男は親になれないってことか?」
リヴァルの言葉に、スザクは苦笑した。
「いや、男親だっているよ。というか、男女が一組で子供を育てるというかんじかな?」
「じゃあ、子供の教育方針が違ったりしたら大変ね」
シャーリーの意見にみんな同意見のようだった。ブリタニアでは、子供を作るのは大人になったものの当然の権利で、他者に遺伝子を提供してもらうが、子供を育てるのは一人でなすことだ。
「その場合は離婚とかするのかもしれないけど・・」
「あ!結婚って言う制度なら知ってるよ。真っ白なドレス着るんでしょ?」
律儀に答えたスザクに、シャーリーが前に記録映像で見たという。
「確かにその映像も男女のペアだった気がする」
「まあ。人工子宮がなければ、普通に生むんだろうけど、なんか怖いよな。」
言いながらもリヴァルはスザクを見て「もちろん、スザクのことを言ってるわけじゃなくて・・」とあわてて否定する。
「うん。ブリタニアでは確かに馴染みのない習慣なのかも・・」
地上では当たり前だったことでも、宇宙に暮らすブリタニア人には信じられないことなんだなと、改めて実感しつつもスザクはある事が気になってルルーシュを見る。
ルルーシュはその視線に気づいて、少しだけ苦笑した。
それだけでルルーシュがなにを言ってるのか分かった気がして、スザクは口を閉ざす。
「そうね〜。まあ、人工子宮とか赤ちゃんは、ともかく、決まったわ!」
ポンッと手を合わせるミレイ。
「なにがですか?」
不穏な言葉にルルーシュが聞くと、ミレイは全開の笑顔を見せた。
「もちろん、地上人になりきっての禁断の恋祭りよ!」
予想通りの言葉に、ルルーシュ含み同席していたメンバーはみな苦笑しながら肩をおろしたのだった。

***

「すまない。さっきは黙っていてくれて」
無事パーティーもお開きになり、寮の部屋に帰ってきたところで、ルルーシュは先ほどのスザクが止めた言葉について礼を述べる。
「別に・・・。でも、あの事は秘密なの?」
スザクは首を振る。ただ自分は黙っていただけだ。
ルルーシュは、自分のベッドに腰を下ろす。スザクも同様に、自分のベッドに腰かけた。
「秘密と言うほどでもないんだ。ただ、あまり知られたくないのかもしれないな」
ルルーシュは、母親であるマリアンヌが自らの子宮を使って誕生したこと。
スザクは会って直ぐに教えてもらったから、みんな知っているのかと思ったけど、ルルーシュはスザクにしか言っていなかったようだ。ミレイなどは皇族にも詳しいので知っているかもしれないが、先ほどは彼女もルルーシュのその話題には触れなかった。ということは、ルルーシュの誕生の秘密は限られた者しか知らないのだろう。
スザクにとっては、母親から子供が生まれるなんてそんなこと当たり前である感覚なのに、ルルーシュにとっては、ブリタニア人にとっては感じ方が違うらしい。それがなんだか少し寂しく感じる。
(ルルーシュが、人工子宮うまれじゃなくて・・仲間のように感じるのかな、うれしいなんていったらきっと傷つくんだろうな・・)
スザクは散々空気が読めないといわれ続けていたので、さすがにルルーシュの心に傷を負わせるようなことは言わないでおくことにした。
「僕にとっては、いま目の前にいるルルーシュがすべてなんだけど・・・それじゃだめ・・かな?・・あんまり過去のこと気にするんじゃ「恋人」失格?」
聞いてみると、ルルーシュは少しだけ泣きそうな顔をしてから直ぐに目を吊り上げた。
「まったく・・今度の祭りはスザクが全面的に協力しろよ」
恋人という言葉から、今度の祭りの企画まで発展した展開にルルーシュは形だけ冷たく言ってから、花を咲かせるかのように微笑んだ。





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