カレンとともにスザクの下を去ってからルルーシュは一路エリア11、日本を目指す。
スザクの監禁により長く動くことが出来なかったが、先に抜け出したカレンがルルーシュの脱出を手伝ってくれた。
ルルーシュに残された時間は少なかった。
ギアス、灰色の魔女との契約は人と異なる理、時間を与えられる。
ルルーシュは契約時より、数年しか寿命が残されていないらしい。C.C.は軽く告げたが、予定を前倒してもナナリーための平穏な世界を手に入れる必要があった。
契約について他に口外することは出来ないそうだ。相手が予想して語ることは許されるが、条件その他、自分から告げられない。ギアスの範疇外のC.C.やマオのように他の能力で知る以外ルルーシュの契約を知ることは出来ない。
ナナリーへの道を閉ざされたとき世界は終わったと思った。ぬるま湯のように、嘘で塗り固められた場所で終わることは幸せだったのかもしれない。けれど、思い出してしまったのなら。
ガラ、と岩が転がる音がする。ルルーシュとカレンはあの日閉ざされた扉の前にいた。
神根島、遺跡の中、一年近く立つためか草が洞窟の天井は大きく空に穴を広げ、光を差込み草が生えている。
埋まってしまった扉の一部には古い文様が描かれているところがさらけ出されていた。
近づいて、扉に触れようとする。
パアン!!
ルルーシュの斜め上あたりに銃声が響く。
「やっぱりここにいたね」
予測していたのかルルーシュのを守るようにカレンが銃を構える。ルルーシュも驚くことなくスザクを振り返った。
「きたのか」
「逃げられるなんて思わないほうがいいよ、ルルーシュ」
銃をルルーシュの瞳に照準を合わせる。
「また、アンタは殺すの?」
カレンがスザクに問いかけるが、スザクの視線はルルーシュしか見ていない。ルルーシュはカレンの肩を押し、自分をかばうように立つカレンを促す。カレンの前に出たルルーシュに、スザクはあの日と同じように感情が消えたように見つめた。
「君が盾から出るなんて、珍しいね。それとも、また流体サクラダイトでもあるっていうつもり?」
さげすむように言い募るスザクにルルーシュは笑みを浮かべた。
「スザク、お前はなぜ俺を生かした?俺の存在すら罪と言ったその口で」
「それは・・・!」
「お前が撃ちたいならそれでかまわない。あの時俺は死んでいたはずだからな」
「ルルーシュ!」
カレンが、スザクの行動を容認する言葉を言うので、とめるように口を挟む。
「かまうな。カレンお前にも感謝している。だが、命をやるならお前でなく、こいつにやりたい」
ルルーシュの眼には眼帯はないが、暴走もなく紫を保っている。
「君はずるいね。君は僕から逃げたのに、そんな事いうんだ」
スザクの顔はさっきまでの無表情から痛みや怒りを募らせていく。
「俺の望みはナナリーの幸せだけだった。ナナリーがいないのなら、俺の命も途切れる、ないものと同じだ」
「そう、君はいつでもナナリーだけは大事にしていたものね。ユフィだって君の妹なのに、彼女は捨て駒に出来た」
スザクの言葉にカレンが驚きの視線を二人に向けた。「妹?」カレンは小さくつぶやいた。
スザクはカレンの声に少し、意識がそがれる。
「ああ、君は知らなかったんだっけ。ルルーシュのこと」
銃はそらさずに、ルルーシュに向けながら、哀れむようにカレンに続けた。
「ルルーシュはルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、れっきとしたブリタニアの皇子だよ」
「元、だな。人質にされ、挙句、見捨てられた・・・な」
ルルーシュも事実を認める。
「え、じゃあ、ユーフェミアはルルーシュの妹?」
「ああ、そうだ。権謀にまみれた皇族の中では珍しく、仲がよかったな」
寂しそうにだが、懐かしそうにも語るルルーシュにスザクとカレンは苛立つ。
「「なら、どうして」」
二人とも疑問をルルーシュにぶつけた。ルルーシュは不思議そうに二人を見る。
「それを、お前たちが問うのか?・・・俺はルルーシュだが、ゼロだ」
ルルーシュが一度下を向き、もう一度視線を上げたときその左目は赤く染まっていた。
ぎゅ、とスザクは銃を汗ですべらないようもう一度握り返した。カレンも緊迫した空気に殺気をよみがえらせるが、二人の銃が放たれる前に二人からは完全に死界になっていた場所から銃声が響いた。
気づいたときにはスザクの腕には赤い流れが出来ていた。
「・・・・時間稼ぎ?・・・また、裏切るんだ」
スザクの銃は床に転がっており、カレンがすばやく取り上げた。
「遅かったな、C.C.」
ルルーシュが背後から気配もなく歩いてきた緑の髪の少女に声をかけるとC.C.は皮肉気に笑った。
「それはこちらのせりふだ」
「C.C.」
カレンが驚いたように黒の騎士団の中でもゼロに近くいた仲間を呼んだ。
C.C.はカレンとスザクをみて興味深そうにルルーシュに話しかけた。
「随分、遅いと思っていたが恋人と楽しんでいたわけか。待たされた、こちらの身にもなってもらいたいものだな。しかも、女のほうでなく、男のほうが恋人か?」
ぽんぽん、飛び出る言葉にカレンとスザクもC.C.の不気味な能力をかいまみる。
「俺の意思じゃない」
ルルーシュは否定した。
「それも、またお前だ。ルルーシュ。・・・さて、時間がないな。はじめるか」
「な、何を?」
カレンが問いかけるとC.C.はついてくれば分かると扉が埋まった奥のほうまで近寄る。
ぽおと、C.C.の額に鳥のようなマークが浮かんだと思ったら長い髪が浮き上がっていく。それとともに崩れ落ちた土砂が浮かび、扉への道を作り出した。
C.C.が振り返ったとき淡い光は消えていた。
「一つ教えてやろう。こいつはお前たちを愛していたぞ。ただ、優先順位として妹が一番だった様だがな」
「黙れ」
ルルーシュは遠慮なく人の心を話す魔女にいらだつ。
「嘘だ。愛していただって・・・ルルーシュはいつも嘘ばかりだ」
スザクは自分の手から離れていこうとするルルーシュに絶望しながら、C.C.の言葉を受け入れられない。
「アンタは、昔からゼロの正体を知っていたのよね。アンタはなんなの?」
カレンは黒の騎士団の時も感じたようなゼロとC.C.の関係に疎外感を覚えた。
「そういえば、お前はあの時この島に飛ばされていたな。私のことをゼロの愛人呼ばわりしたやつがいたが、そんな事実はない。私はこいつの保護者で、傍観者で、共犯者だな」
独特なしゃべり方にカレンもスザクも馬鹿にされたような気になる。
「おしゃべりもそこまでにしておけ、開けるぞ」
ルルーシュは扉に手を触れる。しかし、力が足りないのか扉は開かない。
「確かに、お前に残された時間は長くないからな」
C.C.の言葉に、二人ははっと顔を上げる。
「どういうこと?」
カレンが問いかけるがそのままの意味だとにべもなくC.C.もルルーシュとともに扉を押す。
スザクは昔、V.V.と名乗る少年から聞いた言葉を思い出す。確か、ゼロがギアスと言う力を持っていて。その力は『絶対遵守』・・・人をあやつる力だと。ギアスが発動するには条件があり、左目を見える距離にいることと、一人に対して、一回しか効果がないと。それを知っていたから、ルルーシュにずっと眼帯をつけさせていたのだ。
そして。もう一つ。ギアスの契約には条件があると言っていた。その力によってさまざまな制約が発生すると。あの時、スザクに必要な情報はゼロが卑怯な手で正義を名乗って非道を行っていたと言う確信だけだったから、そこまで気にしなかったが。
(もしかしたら、ルルーシュの命が短いと言うのは本当?)
肩をうたれたまま、地面に座り込んで考えていたが、目の前で必死に扉を開けようとするルルーシュを見て、恐怖が忍び寄ってきた。
ルルーシュの死と言う、恐怖が。
スザクはルルーシュいや、ゼロさえいなくなれば世界は穏やかになると信じていた。絶望と、復讐にルルーシュに銃を向けたのもこの地だ。
だが、幼馴染としての過去やクラスメイトのときの親しさでは、超えられなかった自分の中の葛藤が、この半年近くの記憶を失ったルルーシュとの生活で変化していたことを今気づいた。
あの時のままだったら、ルルーシュに時間が残されていないと考えても、ただの一秒も生きていないほうがいいと殺そうと思っただろう。でも、今はルルーシュに生きていてほしい。
(ボクは・・・ルルーシュが死んでほしくない。一緒に生きていたい)
独占欲もまじって、逃げ出したルルーシュを追ってきたが、殺そうという意思より離さない、自分だけのものにしたいという感情が勝っている。
「手伝うよ、ルルーシュは体力がないからね」
少し、泣きそうな、だがさっきより穏やかにスザクが声をかけるとルルーシュが驚いたようにスザクを振り返る。
「ボクだって、ナナリーがどうなったか知りたいし。・・・君が、ナナリーを一番にしているのだって知っていたのに・・・」
ルルーシュに近づいていこうとするのをC.C.もとめない。カレンは手に持った銃を下げたまま、どうするべきか迷っている様子だった。
「ひとつ、知りたい。君に残された時間はどれくらいなの」
ルルーシュはスザクが心を開きかけて、昔のように戻れるチャンスをくれていることに気づいているが、契約についてルルーシュは口にすることが出来ない。
「それは・・・」
扉から注意を後ろにいるスザクに向けたまま、口ごもる。
「あと、一年弱といったところか。そろそろ体調にも現れてきているのではないか」
かわりにC.C.が答える。その言葉に、ルルーシュの体調をずっと管理していたカレンが身じろぐ。
「そういえば、怪我も治ったのにだんだん体調は不安定になっていったわ。他の原因かと思っていたけど・・・ねえ、ほんとなの?ルルーシュ」
カレンのつぶやきにそっと視線をはずす。
「こいつは自分の寿命について、制約に触れるからいえない。だが、時間がないから、予定を繰り上げてブリタニアへの復讐を進めたのが事実だ」
カレンの中でも、ずっとしまわれてきた、ゼロは自分たちを利用していたんじゃないかという疑念が浮かび上がる。ゼロは指導者として優れていた。自分も紅蓮・弐式をもらったとき一生ついて行こうと決心したが、ゼロ、いやルルーシュは黒の騎士団の仲間を仲間というより駒としてみていた気がする。まるでチェスを愉しむように、ゲームのように・・・
でも。カレンが覚えている限り、ゼロはどんな作戦でも必死にこなしていたような気がする。
確かに、不可能を可能にするといって、力を見せてくれたが、ともに行動しているとき自分自身も駒のひとつとして、連携をとっていた。それの何処が、利用なのだろう?共生、というのではないだろうか。
『結果として』、日本が開放されればいいという言葉は間違っていない。結果がなければ、何のために戦うのだろう。
自分は日本人が暮らしやすい世界を作るため、ルルーシュはおそらくナナリーが暮らせる世界のために。
ゼロが最初に通信をしてきた言葉を思い出す。そう、『私を信じろ、ならば勝たせてやる』だった。ずっと、裏切られたような気がしていたが、嘘は言ってなかった。ルルーシュの生い立ちを知った今となってはなぜ正体を隠す必要があったのかも分かった。
「アタシも手伝う」
スザクとカレンも共に扉に手をかけると、扉の表面に描かれた文様に光が走り、内側から白い光がこぼれてきた。