生徒会の皆が新しいアッシュフォード学園へ帰ってから数週間、ルルーシュの生活はいつもと同じように平穏なものだった。

いつものように焦げた料理から始まり、スザクが軍の訓練に行く間はカレンと二人で留守番をし、スザクを待つ。時々、診察めいた検査はあるが殆ど二人の眼以外に触れることなくどちらかが間に立つのでルルーシュの手を煩わすことはない。

このごろ、スザクも休みを減らして軍に伺候することが多くなった。世間的にも休みづらくなってきていると、スザクが昨日も拗ねていた。



「ルルーシュ、ミレイからメールが来ているわ。へぇー相変わらずね、調理実習でピザ大会をやったみたいよ」

添付されているミレイの作品であろうピザの写真をみながらカレンは笑顔になった。カレンをまだ友人として認めていてくれると分かって、カレンにとっても生徒会のメンバーは特別になった。

「ピザかぁ。あんまり作ったことないわね。今日の夕食それにしてみる?」

写真を見ると、ルルーシュには食べたことのない、ピザなのかと疑問のものがうつっていた。少し顔を引きつらせて、メールを読むとこの前あったときと同じように明るくて面倒見がいい、けれどはどこかぶっ飛んでいるミレイらしいこちらを心配する文章で締めくくられていた。

「夕食がピザか。なんだか胃にもたれそうだな」

ルルーシュが不満そうに言うとカレンはむっとしたように言い返した。

「あら、ルルーシュはピザ大好きだったのよ。ポイントためたりしてたんだから」

「・・・そう、なのか?」

ルルーシュとしては脂っこいものだし、そんなに好んで食べたいものではないが、過去を言われれば納得するしかない。

「よし!決まり。早速下ごしらえしましょ。ルルーシュも料理くらい出来ないとだめよ。ちょっとでいいから、一緒にやりましょっ」



カレンに連れられてキッチンにきたが実はルルーシュは体が不調だったこともあり、殆どここに入ったことがなかった。お湯を沸かしたり、簡単な洗い物しかしていなかった。

「さ、これ!」

カレンが出してきたのは玉ねぎだった。

「私、これ苦手なのよ。刻んでいると泣いちゃって。ルルーシュなら平気かなって」

ルルーシュも一般的に、玉ねぎの成分が目にしみることは知っている。嫌々ながらも、今までキッチンに立つことすら殆ど許されていなかったことを考えれば自分の体調も信用してくれているのだろうと奮い立って玉ねぎを手に取った。



数分後、ぼろぼろと片目から涙を流しながらルルーシュは使命を全うした。

「終わったぞ」

ルルーシュが勝ち誇ったように告げると、さっきから止まらなくなった笑い声を上げながらカレンはルルーシュの頭をぽんぽんとなでる。

「じゃ、次これね」

カレンに食材を渡されながら次も俺に適うものではないと、挑んでいるルルーシュにやはり噴出してしまう。

(やっぱり、性格って生まれついてのものなのね〜)



粗方、準備が出来ると後は焼くだけになった。

「スザクが帰ってきたら焼けばいいか」

ルルーシュがカレンが途中から貸したエプロンを脱ぎながら満足そうに笑った。

「アイツ待つのは私は癪に障るけど、アンタは公認で恋人だもんね」

この前、生徒会の皆が来たときにばらしてしまったスザクとルルーシュの関係をからかうように蒸し返す。

「世間的にはカレンが恋人だけどな」

「ええ、いやなことにね」

ルルーシュもやり返すが、カレンにはまったく効果がなかった。流されてしまう。

ルルーシュだって他の人にどう思われていようと気にしないが、自分とスザクは昔恋人でなかったのかと逆にびっくりしたくらいなのだ。

そう、あれはリヴァルの言葉から始まった。



「なぁなぁルルーシュ。シャーリーと仲良かったけど、結局カレン選んだんだな〜ルルーシュの好みってカレンみたいなほうだったんだ」

人のいい笑みでからかうように告げるリヴァルの言葉にルルーシュは最初意味が分からなかった。

「は?何のことだ」

「だーかーらー、ルルーシュの女の子の好みってこと」

「?・・・だが、俺の恋人はスザクだろう?女の好みなど関係あるのか?」

ぶっ

ごほっ

何人か間の悪いことにお茶を飲んでいた。いっせいに視線はルルーシュに集まるが、なんと言っても記憶はないのだ。生徒会の3人はスザクを振り返る。

「おお、と問題発言!真相はどうなんですか、スザク君」

リヴァルも冗談だよなと顔を引きつらせながらスザクに真相を迫る。

しかし、空気の読めない男は健在だった。

「えっと、うん。ルルーシュはボクの恋人だよ」

照れたように笑顔を作る。カレンはあきれたようにため息をついた。ミレイはぽんと手をたたき、嬉しそうに「禁断の恋ね」と瞳がきらめいている。

シャーリーも、「え・・そんな、禁断なんて」とつぶやきながら顔を赤らめた。

リヴァルはルルーシュを振り返り、そっと肩に手を置いた。

「遠いところに行っちゃったんだな・・・うん、うん、オレは否定しないから」

慰めるように言われたのが印象的だった。



後でカレンに言われたのだが、男同士というのはいないわけではないが、普通は隠すらしい。



「まあ、アイツもルルーシュの手作りなんだから喜ぶわよ」

ピザ生地ににラップをかけて冷蔵庫にしまってから、ルルーシュとともにキチンを出る。

「そうだな。我ながら、材料もきれいに切れているし、具の配置も絶妙だからな」

得意そうに話すルルーシュにちょっとあきれながら、あーでもと続けた。

「スザクって嫌味なやつでね。包丁使いも上手て、文化祭ではたくさんの玉ねぎとか切っていたわ。軍にいたから経験があるって、どんな訓練なのよって思ったわよ」

カレンとルルーシュ、スザクの3人分のささやかな料理と違って、特大ピザの材料は半端でなかった。

「ふん、きっと俺のほうがきれいに切れている」

ルルーシュがむくれた様に言う。カレンとしてはルルーシュの包丁さばきも初心者としてはうまいほうだが、スザクの飛びぬけた才能を見るとこれ以上いうのもなと口をつぐんだ。

(ゼロは、デヴァイサーは私で、自分は指揮官だってしっかり駒の役割を知っていた。いつか、ルルーシュもそういう風に考えるようになるのかな、私や自分のことも駒だって・・・)

「そーね、とりあえずアイツの料理よりアタシはルルーシュのほうがいいわね」



ルルーシュとカレンが夕食の準備をしていたのにスザクの帰ってきたのはとても遅かった。せっかくだからと二人は食べるのも待っていたのに、連絡もせず、夕飯は外で済ませてきた始末。

ルルーシュとカレンのスザク無視生活は3日間続いた。

根を上げたのは、もちろん納得していないスザクだったが、最後まで意地を張り通したのはルルーシュだった。