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(どうして、こうなったんだ)

後ろからついてくる二人をそっと振り返り、すぐに視線を前に戻す。久しぶりに会った生徒会の仲間は出来れば会いたくない人たちだった。二人の様子から町で噂になっているカレンの話まではたどり着いているのだろう。それくらいなら用意したシナリオで対処できるはずだった。けれど、ルルーシュの存在が明るみに出てしまえば、それこそ意味がない。それだけでスザクやカレンが何のためにこんな真似をしたか分かってしまうだろう。

多分、二人はルルーシュの正体を知らない。ルルーシュが、ゼロでなく、どうして今の状態になってしまったか説明できるシナリオは何かないか?

嘘を重ねるのはよくないが、少ない時間稼ぎをしたカレンにも打ち合わせなしで通じるもの・・・

スザクは、論理的な思考と状況把握でパズルのように黒の騎士団を操ったルルーシュの頭脳をこんな時はうらやましくなる。ぼろが出ないように過去を作り出すなど、スザクには荷が重すぎえる。

人を騙すとき90%の本当と、9%のあいまい部分、1%ほどの嘘が一番説得力があるという。



あの日起きたことをスザクは脳裏に浮かべた。



「君は生きていてはいけないっ、」

スザクはユーフェミアを殺した恨みと、何よりもずっと裏切っていた憤りに昔鍵をかけた憎しみによる銃をルルーシュに向けていた。ルルーシュもスザクへと銃口を向けていた。その額には赤く血が流れていたが、それよりも左目からこぼれるまがまがしい赤がスザクの心も狂気に引きずり込んでいく。

今にも崩れそうな氷上のように、二人の間の緊迫感は高まっていく。しかし、

「なんでよっ」

泣きそうな叫び声とともにカレンの腕がルルーシュの肩を押さえつける。ちょうど、ルルーシュからは盾のようにカレンがスザクの前に立ちふさがった。

「どうしてっ、あんた、ずっと、何も変えられないって、のんきに学生しててっ」

ルルーシュの瞳に少しだけ労わるような優しさがともる。それを見て、スザクはさっきよりも激しい憎悪に陥る。

(そんな眼で誰かを見るのは許さない。冷酷な殺人者のまま、死ねばいい)

ルルーシュとの相対を邪魔するカレンにも腹が立ってくる。

「邪魔だよ、カレン、どかないと君ごと撃つよ」

スザクこそが非情な言葉を放つ。

「アンタもっ!何でルルーシュを撃てるのっ!ルルーシュは、!!ルルーシュだったから、ゼロはアンタを助けて仲間にしようと何度も呼びかけたのにっ!!」

ルルーシュから手を離し、守るように手を広げかばう。

「裏切ったのは、アンタのほうだっ」

カレンの叫び声に思わず銃を撃ち放つ。ルルーシュがカレンを突き倒してカレンを助けた。

「くっ」

じわり、と肩からも血が流れ出す。片足をつき肩を抑えるルルーシュの手は血に汚れていく。

「ルルーシュッ!」

カレンがルルーシュを支えた。

スザクは自分が動揺していることに気づいた。いつの間に銃の扱いも慣れていたのに指が震えていた。

「・・・大丈夫だ。それより、カレン。あの扉の向こうにナナリーが・・・・ナナリーを助けて、くれないか」

ルルーシュにとって自分の命より大事なもの。ナナリーがいなくてはルルーシュは何のためにゼロとして世界に革命を起こそうとしたのか。

カレンはルルーシュが妹のために行動を起こしたことに、黒の騎士団として駒扱いされていたことに対する怒りと悔しさが落ち着いてくる。

しかし、それで納得できないのはスザクだ。スザクだって、ナナリーとそれ以上にルルーシュにとって安全に暮らせる世界を守りたかった。

ユーフェミアに助けられ、希望が見えていた。なのに、ルルーシュ自身がその世界を壊したのだ。

スザクにとって、ルルーシュは守られているべき存在であって何かを守ったり、壊したりすることは許されない。ルルーシュがゼロとして起こしたことは裏切り以外の何物でもない。

なのに、今、またスザクを世界から切り離す。ルルーシュの世界から。

ナナリーが中心にいて今目の前のカレンすらもルルーシュの世界に受け入れられていく。

スザクは何もかも壊したくなってさっきからルルーシュがあけようとしている、ルルーシュの最愛の妹がいるであろう場所へ続く扉に続く天井付近の岩盤を撃つ。ガラガラと、洞窟内の天井が落ちはじめた。

「何をする、スザク!」

ルルーシュの叫び声に、スザクはわれに返った。呆然と目の前の光景を見守る。

扉は開かれることなく、崩れおちて来る天井の岩に見る見る埋まっていく。

「ナナリー!!」

必死で扉にすがり付こうとするルルーシュは岩に襲われる。カレンが必死になってルルーシュを扉からはなれさせたときには額と肩だけでなく全身怪我まみれになっていた。

「・・あ、あ。ボクは・・・」

スザクは自分のしたことに呆然としながら、銃を手放す。何も握っていない自分の手を見てからもう一度前を見ると、カレンがルルーシュを必死に止めている。

ルルーシュの視界は閉ざされた扉にしか向いておらず、力の入らない腕でそれでもナナリーのもとへ行こうと伸ばされていた。





(真実、それはルルーシュがナナリーを失ったこと。カレンが黒の騎士団だったこと。ルルーシュが存在を隠さなくてはいけないこと。あいまいなところはショックでルルーシュは記憶を失った。

嘘はルルーシュがゼロであったこと)



スザクはあの日の出来事を思い返しながらこれから重ねる嘘をつくりあげていった。