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職業軍人ならば任務により家に帰れず、殆ど兵舎で仮眠を取りたまの休日もつぶれるというのが殆どの帝国軍人のあり方だ。しかし例外は何処にもいて、大貴族や経済力のあるものは昼出勤、訓練怠慢もある程度許されてしまうのが身分社会だ。

クルルギ・スザクは元ナンバーズであり身分でいえば最下層に当たる。しかし、彼にはその生まれからは考えられない特別待遇が与えられている。

軍人であるが、訓練を時々すればいいこと、テストパイロットの要請があればなるべく従うこと、つまり断る権利があった。帝国内に小さいながらも家をも与えられている。

それは、彼が、亡き第三皇女殿下のただ一人の騎士であったから与えられたものだ。故ユーフェミア皇女殿下はイレブンに温情を与えようと、行政特区日本を唱えた人物だが、その本人によって計画は潰えた。帝国はユーフェミアの騎士にそこまで特権を与える必要はなかったが、ユーフェミアの姉コーネリアや、宰相も勤める兄のシュナイゼルのユーフェミアへの手向けとして渡された。

もちろん、スザクは最初、自分が守れなかった主に助けられるようなこと認めたくなかったが、カレンとルルーシュの存在があった。



カレンと結託して、ルルーシュの存在を隠すことに決めたあの日からスザクにそれが全てになった。まず、ユーフェミアを失ったことにより自分は心身虚脱状態が続いていると偽った。ランスロットの起動試験も申し訳ないが、手を抜くことにした。カレンをルルーシュの世話に迎えるためにカレン・シュタットフェルトの名も利用することにした。もともと病弱で通っていたカレンとスザクはアッシュフォードで出会い恋人になったが身分違いの恋をユーフェミアが応援していてくれていたとうわさを流した。皇族の色恋を噂できないものも、その騎士の恋を応援していた悲劇の皇女となれば、ブリタニア帝国にも悪いイメージではない。そのおかげもあって、スザクの軍での優遇には拍車がかかったのだ。



スザクとカレンの間に恋愛感情はない。どちらかというと嫌悪や相反するものを強く抱いている。しかし二人には共通するものもあった。そのひとつがルルーシュ・ランペルージ。

彼への思いはどちらも尊敬や友情という正の感情から、裏切られた悲しみ、憎しみをと負の感情を通り、今はスザクカレンともに罪悪感が一番強い。二人はルルーシュという人物にとらわれているのだろう。



カレンがスザクの恋人のように振舞ったおかげで、女装してスザクの家に運び込まれたルルーシュもまるで病弱なシュッタットフェルト家のお嬢様のように周りからは勘違いされた。ルルーシュの容態は安定していなかったので医者の面会謝絶の言葉はスザク自身も軍や周りも目から遠ざけられた。カレンとスザク二人が身の回りの世話をすることで医者すらもルルーシュがカレンだと思っていただろう。

今は時々、カレンも外に出ることになったが外では病弱なお嬢様を続けてもらっている。家の中とのギャップはいつもめまいを起こしそうだが、それにもだいぶなれてきた。



ルルーシュに外出を許したことはない。もちろんスザクカレン以外の人と話すことも。ルルーシュの力がどう働くかわからないので、最初はルルーシュの両目とも包帯で覆っていた。しかし、カレンに説得され、左目だけの眼帯にすることになった。あの時会った少年からはルルーシュのギアスは一度かけたものにはきかないといってた。スザクは身に覚えのない神根島のとき、カレンはもっと昔にそれらしいものがあったといっていた。



最初に起きてルルーシュの記憶が消えていることを知ったとき、ルルーシュの演技だろうと疑った。今までが、嘘で続けられた関係だったからなおさらだった。先にルルーシュを信じたカレンをみて、なぜまただまされるんだろう、馬鹿を見るのはこちらだと思った。

それでも、自分で傷つけたルルーシュの看病を続けていた。



ルルーシュが本当に記憶がないと確信したのはルルーシュの何よりも大切なものであった妹のナナリーの存在だった。ルルーシュはルルーシュであっても、ゼロであってもナナリーを一番大切にしていた。ナナリーのいないルルーシュはそれこそ真っ白なゼロの状態だった。何もまだない状態で一番になれる予感に暗い喜びを感じた。



(間違った方法で、・・か)

何度もルルーシュに差し伸べられた手を断っていたときに口にした言葉は今は遠い。正直これが憎悪から生まれた復讐なのかと問われても答えられない。傷ついたものを助ける慈善でもなく、偽善ですらなく罪悪感にまみれた独占欲なのだろう。

(それでもボクは・・・!)