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アッシュフォードに入って、理事長に形式的に来訪を告げたときにひそかに、彼を通してルルーシュたちに応接室には来ないでほしいと伝えたが、クロヴィスは内心ひやひやしていた。
そんなこととは露知らず、明るい校内をシュナイゼルも、コーネリアもユフィも笑顔で歩いている。ただ、クロヴィスだけが引きつった笑顔を浮かべていた。
もうひとつ保険として、兄たちがいる前で専用回線は開けなかったので、わずかの隙にだがルルーシュにメールも送った。
「クロヴィスお兄様、私自分で探しに行ってみます」
クロヴィスはいつもは勝手に入っているが今日は正式に案内されて応接室に通された。
ユフィはソファーにいったん座ったが、じっとしていられないらしく、すぐに立ち上がって部屋を出て行こうとする。
「ユフィまちなさい」
コーネリアがたしなめたが、彼女は明るく笑った。
「大丈夫よ。治安もいいんでしょう。それに、呼び出しちゃったら驚きが半減しちゃうかもしれないもの」
いたずらっ子のように笑って、さらりと部屋を出て行ってしまった。

「・・まったく、困った子だ」
コーネリアは言ったが、言うほど思っていないようで苦笑していた。セキュリティの高い校内とはいえもちろんコーネリアが選別したSPもついていくからたいした心配も少ないのだろう。

「はは。無邪気でいいじゃないか」
シュナイゼルは笑う。

「あ。では私が案内してきますよ」
クロヴィスはあわてて立ち上がったが、シュナイゼルに止められてしまう。
「まあ、あの子も先日まで学生だったんだ。君より、校内のことには詳しいはずさ」
にこやかに告げられる言葉に、毎日のようにこの学園に足を運んでいるクロヴィスは反論したくなったが、そうすると、自分が何の用もなく学園に通っているという不審感を抱かせてしまう。
「そうだな。時間までに見つからなければ、あの子も戻ってくるだろう」
コーネリアの言葉に、クロヴィスはただ祈るだけだった。4人がこの学園に滞在する時間は後30分もない。今日はルルーシュたちは部屋から出ないといっていたし、この学園で目立つスザクはすぐに見つかるだろうから、心配することはないのかもしれない。

ユフィが出て行って、3人でソファーに向かい合って座っていると、シュナイゼルがそういえば・と話し出す
「この前の式典、クロヴィスは急遽出席を取りやめたそうだね。ユフィが寂しがっていたよ」
こちらで何かあったのかい?という兄の視線を感じてクロヴィスは戸惑う。
クロヴィスとしては、ルルーシュたちに会えたことで舞い上がってしまった気持ちを、また生きていることを知られてはいけない相手もいる皇族の集まりを敬遠しただけなのだが、それ以前の皇帝の式典には毎回出席という状況が、良くなかったらしい。
「・・ご心配をおかけしました。すこし風邪をこじらせまして」
風邪を引いたのは自分ではなく、ルルーシュのことだったが、クロヴィスは無難な答えを用意していた。
「そうか。式典の一週間前から欠席の連絡をするとは、よっぽどたちの悪い風邪だったのだね。今は治ったようでよかったよ」
にこりと一息に言う、シュナイゼルにクロヴィスは心臓が飛びだしそうになった。

(ただの、兄妹を気遣う言葉だというのに・・)

「ありがとうございます。じつは式典の日には治ってはいたのですが、病み上がりの顔を皇帝陛下ならびに皆におみせするのも心苦しかったものですから」
つかなくてもいい嘘を重ねなくてはいけないことに、
心苦しく思ったその時、
全校放送が応接室にも流れてきた。

『生徒会より緊急連絡っっ!!!全部活はいったん部活動を休止して、現在特別棟に向け廊下を走っているわれらが副会長を捕まえること!!彼を捕まえた部活には予算を優遇しますっ!!以上健闘を祈るっ!』

この声は、以前あったアッシュフォードのものだろう。

しかし、内容が非常にまずい。

「・・ずいぶんと変わった放送だね」
シュナイゼルが、珍しくきょとんとした顔をしている。コーネリアも、こんな一方的な平和な緊急放送を聞いたことがないのだろう、びっくりした顔をしている。
「そ・・そうですね」
言いながら、クロヴィスは冷や汗を流していた。
(ルルーシュが、こちらに向かっている???なぜ??話はちゃんと伝わったのではないのか・・)

「副生徒会長は、なにか危険人物なのだろうか?特別棟とはこの部屋もそうではないのか?」
そんなところをユフィ一人でいかせてしまったのか、とコーネリアがクロヴィスに視線を送ったところで、認証コードがなければ開くはずのない応接室の扉が勢い良く開かれた。

「ナナリー!」

言って入ってきたのは、黒髪の学生。

軍人ゆえ、とっさに立ち上がって持っていた銃を構えたコーネリアも、掛けたままだったシュナイゼルも、そして、扉をあけた学生、ルルーシュも驚くように動きを止めた。

ただ一人、クロヴィスはあきらめてため息を落とした。

「銃をおろしていただけませんか、姉上」

とりあえず、それだけ言うしかできなかった。