_____


専用回線というものがある。それは、一般通信とは別で、主に非常時に使われることが多いのだが、それゆえ政治的主要人物はそんな回線を何本も持っている。
スザクが、軍の訓練を終えて、掛けたものもそのひとつで、3年前に本人から認証コードをもらったものだった。
「一回だけ、お前の望みを聞いてやる」
それが、その人の言葉。

(僕の望みは・・)
これを掛けることは、きっと友人であり、一番大切な人への裏切り行為になってしまうかもしれない。

「ひさしくみる顔だ。連絡をしてくるとは思わなかったよ。」
数秒後、本当に出るとは思わなかった人物が画面に映る。スザクは、こんなにすぐに出るとは思わなかったので、一瞬息を呑む。
相手は、このエリアを任されている身で、多忙中のクロヴィス殿下だったからだ。
時間として、自室でやすんでいるだろう時間なのが幸いしたのかもしれない。

「・・・お久しぶりです。クロヴィス殿下」

「さて、3年ぶりにできたという「望み」を聞こうか」
以前、クロヴィス殿下の呼び出されたときに、スザクはひとつだけ望みを聞こうといわれた。しかし、スザクには特に望みもなく、また、ルルーシュたちと仲良くしていたからの褒美という名の言葉に、何も言いたくなかった。
何も言わないスザクに、クロヴィスは一回だけ使えるという専用回線を渡したのだった。
だが、今は、使える手はすべて使いたい。

「僕の・・大切な人を、助けてください」



自室で休んでいるときに、そろそろ寝ようかと、みなのものを下がらせたところで、久しぶりに、ずいぶん前に渡したはずの専用回線がなり、一瞬驚く。クロヴィスはこの回線はずっと使われることがないだろうと勝手に思っていたから。
3年前に望みを言えといったときでさえ、そんなこという必要がないという顔をしていた少年を思い出しながら、どんな心境の変化だろう、と了承のコードを入力する。
画面に現れた少年が告げるのは、「大切な人を助けて」という願い。
イレブンの彼女でもできたのかもしれない。だが、下々のもの面倒に自分が出て行く必要はあまりない。この少年のもてる身分では助けられない存在ということか。そんなことを思いながら部下に任せようとして、ふと何かを感じる。
「・・名前をきこうか」

別に自分でも聞かなくてもいいことだ。そう思っているのに、言葉は勝手にでる。画面の中の少年は、少しだけ遅れて信じられない名前をつげた。

「ルルーシュを。僕の友達のルルーシュ・ランペルージを助けてください」

言われている内容を、すぐに理解できなかったが、気がついた。
この少年が告げるルルーシュが何者なのかを。そして、この少年は、その所在を知っているということを。

「・・詳しい話を聞こう。・・今はどこにいる?」
クロヴィスは、画面越しではなく、話を聞く気になった。
否、今目の前にこの画面に映る少年がいないのが忌々しく思えた。

政庁の奥に、スザクは3年ぶりに足を踏み入れる。

連絡が入っているのか、深夜にもかかわらず、すんなりと控えの間から続く応接室に入室が許された。3年前と違うのは、扉のところに控えていた兵がいないこと。

「このような遅い時間に、時間をとっていただき・・・」
そして、スザクが礼をする前にクロヴィスがスザクの元まで歩いてきたことだった。
スザクとしては長文のようなブリタニア風の挨拶を覚えてきたのは無駄になったわけだが、先ほどの通信はクロヴィス殿下が驚くのも納得がいくものなので、挨拶の途中に顔を上げろという言葉に素直に従った。

途端、骨がぶつかる音と、頬に感じる痛みに、後ろへ倒れる失態だけはまぬがれる。

あとからじわりと頬が熱く痛みを訴えてくる。

「詳しく話すのだろうな?」

スザクを殴ることで少しは気が晴れたのか、クロヴィス殿下は話を聞く気になったようだ。
自分がこの部屋まで呼ばれた理由はこれのためだったのだろう、とスザクは気がついたが、これくらいはまだ軽い想定内だ。

「はい」
言ってクロヴィスへ話すことにした。なぜ、自分がクロヴィス殿下の弟である今はなきルルーシュにもう一度会えたのか、そして、3年前に調べたときに見つからなかったのか。
それから、今彼らが、病の床に伏せっていることを。