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ナナリーの体調が悪いといってルルーシュの不登校が続いて5日間。
スザクの隣は今日も空席だった。

(僕も軍の用事で出られないことも多いけど、ルルーシュの場合、ナナリーのことで特例として認められているとはいえ、出席日数は大丈夫なのかな・・)
少しだけ気になっていたことを考えながら、スザクは授業を受けた。
ルルーシュのことだ。成績で遅れをとるということは考えられないが、なにか持っていくものとかがあったら・・と思いつつ、今日の放課後は少しだけでもクラブハウスに寄っていくつもりで、無駄かもしれないが貸し出せるようにノートもとってみるのだった。

放課後になり、とるものとりあえずクラブハウスに向かったスザクは、そこで赤い顔をしてふらふらしているルルーシュに出迎えられた。

「わざわざ、悪かったな。」
言葉だけは何でもなさそうに言うのに、その表情はどこか熱を帯びて瞳も潤んでいる。
ふらっと、倒れそうなルルーシュにスザクはあわてて駆け寄り、しっかりと体を支えた。
「ルルーシュ、無理しすぎだよ!!」
スザクの声に、ルルーシュは否定する。
「あんまり大きい声を出すな。・・俺は大丈夫だから」
ほんの少しだけ、館の奥を見るルルーシュに、眠っているナナリーを気遣っているのだと気づく。
「・・ごめん。でも・・君も熱だってあるよ。」
先ほどより小さな声でスザクが言うと、ルルーシュは手を振り解いた。
「本当に大丈夫だ。ノート、ありがとう。また落ち着いたら授業に出るから・・」
だから、今日は帰れという言外の言葉にスザクはすこしだけ押し黙る。

「・・咲世子さんは?」
「交代で休んでいるから」
ナナリーのそばにいた看護士の制服をきたメイドさんの名を言うと、彼女にはいまは休憩を取らせているという。しかし、ルルーシュの憔悴具合を見るからにも、ほぼ一人で看病をしているに違いない。
「じゃあ、僕がしばらくナナリーを見ているから。だからルルーシュは少しでも眠ってよ」
言ってみるがルルーシュは首を振った。
「・・悪いが、あまりナナリーのそばを離れたくないんだ。・・スザクの小言は後で聞くからさ」
そうして、頑固に断られて、スザクは玄関から追い出されたのだった。

スザクはその次の日も欠席したルルーシュにノートを持っていった。
今度は咲世子さんがでてきた。

「枢木様、申し訳ありません。・・・実はルルーシュ様の具合もあまりよろしくないのです」
明らかに疲れた顔をしている彼女はどうもナナリーの面倒を見るので精一杯で、ルルーシュが「少し寝ていれば平気だから」といっているので彼には自室で休んでもらっていると告げる。
「本当は、ルルーシュ様の様子も気になるのですが、ナナリー様を優先しろとおっしゃられて・・」
彼女も困っているようだったので、スザクは自分が代わりにルルーシュの様子を見ようと約束して無理やりに部屋にあがった。
「ルルーシュ様は、今までこの家に人を招いたことがなかったのですが、あなたなら・・」
以前、ルルーシュの部屋まで行ったこともあったのが幸いした。なんとか咲世子さんもスザクが入ることを了承してくれた。
「では、私はナナリー様のもとにおりますので、何かありましたらおよび下さい。よろしくお願いします」
「気にしないでください。僕もルルーシュが心配ですし」
にこりと微笑んで答えて、2階へあがった。

「ルルーシュ、入るよ・・ルルーシュっ!!」
ノックをして、扉を開けると、部屋の奥のベッドにいるはずの人物が、床で倒れていた。
あわてて駆け寄るが、意識はない。
呼吸を診てみると少し苦しそうに息をしていて、顔は見るからに熱で赤くなっている。
起こさないようにそっと持ち上げて、ベッドに寝かせる。想像以上に軽くびっくりしたが今はそんなことをかまっていられない。
てきぱきと、毛布をかぶせて、隣のバスルームから水とタオルを持ってくる。
固く水を絞って、ルルーシュの額に乗せると、すこしだけびくりとしてから、少しは楽になったような顔をする。
「まったく・・」
無茶をしすぎる・・と、思いながら部屋を見る。
この部屋も、ブリタニア様式の部屋だ。エアコンも効きにくい造りをしている。
「予備の毛布とかあるのかな?」
せめて、もう少しだけでも暖かくさせないと、と、隣の部屋へ探しに行くことにした。

「使ってない部屋も結構あるんだな・・」
ルルーシュの生活スペースはこの館のなかの、ほんの少しのスペースのようだ。ほかの部屋は、まったく使っていないのか、掃除はしているようだが、圧倒的に物が少なく、場所によっては埃よけのカバーがかかっている。ルルーシュの自室も、それほど私物はなさそうだが、人が住んでいる空間になっているのだから、ほかの部屋よりは居心地もいい。
人のいない空間に、ひやりと、実際以上の冷気を感じつつ、見つけたリネン室に保管されていた毛布を持って、ルルーシュの部屋に戻ることにした。

「・・!」
部屋に戻る直前、今度は部屋のドアのところに倒れているルルーシュを見て毛布を投げ出して駆け寄る。

いったい何時起きたのか、それよりもせっかくベッドに寝かせたのに・・と抱き起こすと、今度は、少しだけ意識が回復していたのが、視線をさまよわせた後に、スザクの顔を見る。
「ス・・ザク?」
「ルルーシュ、寝てないとだめじゃないか!」
強い口調で言って、もう一度ベッドにもどす。

「・・な・・で・・ここに・・??」
話すのもつらそうに、言うルルーシュ。

「ルルーシュを心配してるんだよ。ほら、ナナリーも咲世子さんが見てくれているから、君もゆっくり休むんだ」
布団を掛けなおしながら、優しく語り掛ける。
「ナナ・・。スザク、俺はいいから・・ナナリーを」
とたんに不安そうに瞳を潤ませるルルーシュに、スザクは失言したことに気がついた。
「ルルーシュ。・・大丈夫だから、とにかく休んで。僕は、君が床に転がっているほうが心配だよ」
「・・すまない・・」
「謝ってほしいわけじゃないよ。ほら、ちょっと水を替えて来るから安静にしてるんだよ」
スザクはそういって、床に落ちたタオルと水を持って隣のバスルームに向かう。
さすがに、床に落ちたタオルをルルーシュの頭に載せることもできないし、タオルも新しいのを何個かもっていったほうがいいのかもしれない。
手早く作業を済ませて帰ると、今度は、ベッドでおとなしくしてくれていたルルーシュにほっとしながら、新しいタオルを額に乗せてあげる。

その後、さらに毛布を追加してかけたが、スザクも軍に出なくてはいけない時間になり、咲世子さんに、また来ますと声を掛けてからクラブハウスを後にしたのだった。


「ねえ、君さ〜、やる気ないでしょ?」
訓練中もずっと熱に浮かされながらもナナリーの元へ行こうとして倒れこんでいるルルーシュのことを思ってしまって、集中しないでいたら、上司の不機嫌そうな声が降りてきた。
「残念でした〜。それでも今日の訓練は続けないといけないんだよね」
「スザク君、もし気分が悪いのなら、少し休む?」
今度は上司二人の声がコクピット内に響く。

「・・いえ・・だいじょうぶです」
本当は、休んで、そのままルルーシュのところに駆けつけたかったが、訓練中は訓練中だ。自分は軍人なのだからと、言い聞かせてさっきの情景を忘れようとする。

(せめてルルーシュのそばに、誰か人がいたら・・)
咲世子さんもナナリーもいないと、ルルーシュは本当に一人だ。
ナナリーが具合のいいときなら、ルルーシュの無茶も止めてくれるが、あの状態ではだれも何もいえない。
生徒会のメンバーに、頼んでおこうかと思ったが、ミレイはともかく、ほかのメンバーを家に入れたこともないと聞いていた。
生徒会長ならルルーシュに無茶するな、と遠慮なく言えるだろうが、彼女も今本国に用事があるとかで3週間は帰らないといっていた。

そして、ふと思い出す。

あの人なら・・。

「スザク君!」
上司の一人、セシルさんの声がひびいてはっとする。とたん、試作機の目の前に現れた障害物をとっさによける。VRなので、実際にぶつかるわけではないのだが、衝撃もあるから、正面衝突は危険だった。

「何だー。残念」
もう一人の上司ロイドさんが残念そうな声を出す。しかし、顔はなんだかうれしそうだ。自分の作った機械が見事に障害物をよけるのはうれしいのだろう。
「すいません。集中します」
もう一度、謝ってからスザクは計器に集中した。