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「ス・・ザク・・さん?」
車椅子にのって見えない瞳の代わりに自分の頬に手で触れて確認する少女。
「うん。そうだよ。久しぶりだね、ナナリー」
スザクはにこりと笑ってからナナリーの手に自分の手を重ねた。
朝にルルーシュから、ナナリーも一緒にこのアッシュフォード学園に通っていると聞いて、さっそく今日のこの晩餐に招待されたのだった。スザクにとってナナリーも大切な幼馴染だ。ルルーシュと同じように死んでしまったと聞いていたが、生きていてくれてうれしかった。
中等部に通うナナリーの帰宅にあわせて、ルルーシュと早めに彼らが住まいとしているクラブハウスに先回りして、タイミングを合わせて台所に隠れた。ルルーシュの合図でナナリーをびっくりさせようという案だったが、狙い通り驚いてくれたようだ。

「・・よかった・・。7年ぶり・・ですね、スザクさん」
7年前よりしっかりした口調で、しかしルルーシュが大切に守ってきたのだろうということがすぐにわかる、おっとりとやさしい少女にスザクもうれしくてたまらなかった。
「僕も会えてよかった。もう会えないかと思っていたから・・」
しばらく、ナナリーと二人、手の温度を感じながらまたあえたことを喜んでいると、ルルーシュが苦笑した。
「ほら、スザク、それくらいで。ナナリーも、夕飯の前に着替えてくるだろう。咲世子さんも待っているよ」
「あ。そうでしたわ。では、すぐに戻ってまいりますね。お兄様、スザクさん」
ナナリーは、まるで見えているかのように自然にルルーシュのほうを向いてにこりと表情を緩ませると、車椅子を器用に操作してダイニングを出て行った。
自動の扉が閉まると、スザクは、部屋の外に出て行ったナナリーに向けてうれしそうに微笑んでいるルルーシュを見てから、今の会話で気になったことを聞く。

「ここには、ほかにも人がいるのかい?」
名前からしてイレブンであろう「咲世子さん」という人のことを聞く。
ただでさえ学校内のクラブハウスに人が住むというのは珍しいが、知らない人の名前が出てきたことに少し興味がわいてしまう。
自分の知らないルルーシュを知っている人かと思うと俄然興味がわく。

もしかして、ルルーシュの恋人なのだろうか、と。

「本当はナナリーと二人だけで静かに暮らせるほうがいいんだが、アッシュフォードから来てもらった人に色々と面倒を見てもらっているんだ。さすがに、この年になるとナナリーも俺に知られたくないことだってあるだろうし・・彼女のことも、夕飯のときに紹介するよ」
だが、想像と違ったルルーシュの説明にスザクは、なんだ・・と納得した。
ルルーシュのというより、ナナリーのための人物なのか、と。
ルルーシュもナナリーもいくら仲の良い兄妹とはいえ異性だ。そもそも、枢木の家にいたときはさすがにすべてルルーシュが面倒見ていたが、その前は多くの家臣に世話をしてもらっていた身分なのだが。
ちょっと考えれば、妹を大切にしているルルーシュのことだ。ナナリーのためという、そんなことすぐわかりそうなことなのに、一瞬、ルルーシュの恋人だろうかと思ってしまった。

(よかった・・)

スザクはなぜだか少しほっとしたのだった。
目の前にいるルルーシュをもう一度見てからスザクは微笑んだ。

先ほどのナナリーのように手を伸ばせば触れられる距離にいる。

(ルルーシュがここにいる)

生きていてくれたことに、神様でもなんでもいいから感謝したくなる、そんなうれしさを感じる。

「スザク?」
ルルーシュの困ったような声にはっと気がつくと、スザクの腕は目の前にいるルルーシュを抱きしめていた。
「・・あ。・・・ごめん。でも、うれしくって」
そういううちにも、スザクの瞳からは勝手に涙がこみ上げる。
一度こぼれだした涙は、なかなか止まらなくて。
「ご、ごめん・・・ちょっとこのまま・・」
泣き止むまで、という言葉を言うまでもなく、ルルーシュはだいぶ困惑した表情をしてはいたが、ふっと息をつくと、スザクの瞳から流れ落ちる涙をその指でそっとぬぐった。
「・・・俺も・・・」
会えてうれしいよ、という小さな声とともに。