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「ルルーシュ!」
スザクは、入れないはずの最上階の屋上の扉を開けて、ルルーシュが一人で大空の下、フェンスに寄りかかっているのを見て思わず名前を呼ぶ。

ふわりと優雅に振り返るルルーシュ。
「・・久しぶりだな、スザク」
男に言う言葉でもないかもしれないが、数段きれいになった表情でにこりと微笑む。
艶やかな黒髪は以前よりも短くカットされている。吸い込まれそうな紫色の瞳はまっすぐスザクをうつしている。

「・・・・ルルーシュ・・本当に、君なんだね」
足早に近づいて、後一歩のところまできて止まり、スザクは泣きそうになるのをこらえながら、確認してしまう。
「本当に、って偽者の俺でもいるのか?」
皮肉を言うように笑うルルーシュにスザクはおや・・と気がつく。ルルーシュの一人称は「俺」であっただろうか?

「本当は偽者でもいいから、会いたいと思っていたけど・・・・本物の君にあって、君以外会いたかったなんて嘘だったと気がついたよ。あえてうれしいよ、ルルーシュ」
スザクは思ったまま言っただけなのだが、ルルーシュは軽く言った言葉にスザクの告白めいた反応にびっくりしてそれからぼっと音が出そうなほど一瞬にして赤面になる。
「・・お前・・変わったな」

少しだけ怒っている表情なのはなぜなのだろうか?

「変わったって、少しは大人になったって言ってよ。ところで聞いてもいい?」
「・・今までどこにいた・・とかか?」
「そう」
スザクはにこりと微笑む。昔からルルーシュはスザクの聞きたいことはほぼわかっていた。変わらないルルーシュの態度にうれしくなってしまう。
「だって気になるよ。僕はずっと君たちはブリタニア本国に帰ったとばかり思ってたんだよ」

「・・7年間、ずっと隠れていたさ。このアッシュフォード学園も去年から通っている。・・・以前言っていただろう。知り合いがいるって。この学園の理事とは縁があってもぐりこませてもらったってわけさ。・・・スザクこそ、どこにいたんだ?まさか名誉ブリタニア人になるなんて・・」
簡単に説明をするルルーシュは逆にスザクにも問い返す。しかし、その簡単な説明だけでも、ルルーシュが3年前に見つからなかった理由がなんとなくスザクにはわかった。調査資料の通りだとすれば3年前、ルルーシュの名前を出して捜索が行われたわけでもないゆえに、調査を打ち切った後に入学したルルーシュのことを学園が報告するわけでもなく、クロヴィス殿下たちさえも知らなかったのだろう。

「色々考えて、3年前に軍人になったんだけど、軍の訓練ってけっこう体力勝負なところあってさ。それは結構性にあってるかもしれないなって」
「お前は昔から体力だけはあったしな」
スザクの言葉に、ルルーシュはあきれたように言う。
「・・体力も、って言ってよね。」
スザクがひどいなと、肩をすくめると、ルルーシュは笑いながら悪いと言って、それから一転、真剣な顔をする。
「でも、軍に入ったと言うことは実戦にも・・」
ルルーシュの心配はごく自然なものだ。軍ということは戦うことが仕事なのだ。
幸いなことに、スザクはこれまでに、大きな実戦はでていない。ただでさえ、3年前から大規模な軍による粛清は少なくなり、実戦に名誉ブリタニア人を起用しようとしないきらいもある。あるとしても、武器の補充など雑用をするくらいで、ナイトメアを投入した戦いとなると純潔派の者が動いて、名誉ブリタニア人は後の掃除のみをするということもあった。それもそれで、精神的につらいものもあったが、軍人になって、自ら人を殺めるということをしていないのは幸いなことなのだろう。
だが、スザクは先日異動になったばかりだ。特別派遣嚮導技術部・・・通称、特派に。
これからはどうなるかわからない状況ではあるが、まずはルルーシュに心配させないようにしようと思った。

「今は技術部にいるから・・」
スザクは詳しくは語らず、にこりと笑顔でその先は言わなかった。
嘘は言っていない。
「技術部か・・なら、あまり危ないことはないんだな・・」
ルルーシュのあきらかにほっとする顔を見て、スザクはなんだかルルーシュに嘘をついているような後ろめたさを感じつつ、一方で自分のことを心配してくれることにうれしくなるのだった。
「ああ。データの収集とかが主な仕事かな。詳しい数値とかは、上司が見てくれるからなんか言われたとおりにひたすら作業をするって言うか・・って、軍の内容は一応機密らしいから詳しくいえないんだけどさ」
「・・なんだか少し聞いただけでも、データの入力作業に手を焼かせている姿が想像できるな」
スザクの軽い説明に、ルルーシュはもう一度安堵の表情をむけた。
「・・ところで、ルルーシュは、今までずっと本国に連絡は取らなかったの。あの時迎えが来ていたよね?」
逆にスザクが聞くと、ルルーシュは言われるだろうなということがわかっていたのか、少しだけ言葉を濁してから意を決したようにスザクを見る。

「・・ああ。・・色々あってさ。スザク、頼みがあるんだが・・」
「・・・なに?」
なんとなく何を言われるかわかりつつ、スザクはルルーシュの頼みを聞くことにする。

「俺のことは、黙っていてくれないか。・・・もちろん、いつかばれてしまうかもしれない。それはわかってはいるんだが・・・今はまだ知られたくないんだ・・・」

ルルーシュの言葉に、ふと3年前に会った悲しそうな表情をしたクロヴィス殿下を思い出す。あの人は、きっとルルーシュが生きていることを知ったら喜ぶのだろうと簡単に想像できる。だが。
「君がそういうのなら」
スザクにとって大切なのは、ルルーシュだから。
「・・そうか」
ルルーシュはありがとうと礼を言ってから、それなら、せっかくだから・・とスザクに、もうひとつのうれしいニュースを教えたのだった。