■ 誕生日
Date: 2009-07-10 (Fri)



もうそろそろ夏も本番に近づいた日ルルーシュは特派があるペンドラゴンの郊外でナイトメアの製作というよりもまかないの仕事をしているかのように沢山の食材を抱えて出勤していた。スザクが一緒に特派に勤務するようになってからルルーシュはお弁当をもってくる事が殆どであったが、特派に備え付けられた簡易なキッチンを借りてスザクのために食事を作ることも多い。
スザクが一人前線に飛ばされていたときは自分でも気づかなかったがセシルの食事以外であればとりあえず腹が満たされればいいと思っていた。セシルとロイドも一緒にルルーシュの作った食事をとる事が多くなり、技術屋というよりはルルーシュは特派の世話係だった。
今日は7月9日、スザクの誕生日の前日だ。
スザクとともに軍人になってからまともにスザクの誕生日を祝っていなかったことに気づいた。ルルーシュは、折角だからスザクのためにスザクの好物を用意しようと特派と並行して務めているナナリー皇女の補佐を休ませてもらった。
ブリタニアでは7月はさっぱりした暑さが強くなっていく季節だ。緑も色味を増して濃くなっていく。しかし、ルルーシュの記憶にある夏はやはり日本の夏だ。
ルルーシュの記憶はスザクとであった頃、多分10歳前後のころ一度全てを失っている。名前も本当にルルーシュという名なのかもはっきりしない。ルルーシュが今もっている記憶はスザクと共に過ごした7年だけで、それも枢木神社と、戦争があってからは京都六家の屋敷くらいしか行動範囲もせまくその殆どがスザクの側にいられたという事だけだ。
スザクは日本でも名家の出身で日本がなくなっても枢木家の嫡男の誕生日となれば京都の重鎮たちも集まる宴が開かれた。ルルーシュは異国の徒としてスザクの部屋で大人しく姿を潜ませる事が望まれていた。
それでも夜遅くにはスザクはルルーシュの待つ部屋に戻ってきてルルーシュがおめでとうと祝福をいえば照れくさそうに笑ってくれた。
ルルーシュの誕生日は・・・ない。正確に言えば知らない。
厄介な居候として枢木家に現れたルルーシュの生い立ちを知るのは今は亡きスザクの父ゲンブのみでルルーシュの誕生日など口に出された事もなかった。
スザクが気にしてルルーシュの誕生日を作って二人だけで祝おうかといってくれた事もあるが、ルルーシュは断った。軍人になるとき登録が必要だったので便宜上スザクと初めてあった日を誕生日として登録している。スザクは自分の方がたぶん年上だと不満そうだったがつい先日その日を迎えたときは不器用なスザクが焼いたおもちを二人して食べた。
日本特有の湿気の多さとはちがってブリタニアの夏はさっぱりしている。それでも暑さはルルーシュの体力を奪うものだった。
「よし、これで条件はクリアした」
ごそりとキッチンに荷物をおくとルルーシュは備え付けられた椅子に腰掛けた。一息ついていると物音に惹かれたのか特派の主任ロイドがひょこひょことやってきた。
「あれぇ〜〜ルルーシュ君、今日はアリエスのほうじゃなかったっけ〜〜?」
間延びしたロイドの声はいつもよりも暗くルルーシュは研究が行き詰っているようだと判断した。ルルーシュはキッチンを借りる事を伝えようとしたが、それよりもあは〜と訳知り顔で近づいてくる上司に警戒を感じた。
「ちょーど良かった、君、時間あるみたいだね〜少し、手伝ってよ」
ルルーシュだって特派に属する研究員の一人だ。ロイドの研究に手を貸すのはやぶさかではない。しかし、今日は休みをもらってまでスザクのための料理を作ろうと重い荷物を抱えてやってきたのだ。
「申し訳ありませんが・・・」
「だーめ!こっちが優〜先〜」
らんら〜とまるで歌うようにランスロットの前に引き摺られていく。するともう一人の上司も今日は来ないはずのルルーシュの姿をみて驚いていた。
「ルルーシュ君、今日は」
ルルーシュはめんどくさくなって自棄糞に休日ですと主張した。しかし折角の獲物を手放すかとロイドが手を離す様子もなくセシルもそれは止めようとしなかった。
特派が出来てからずっとこの二人が主軸でランスロットというナイトメアを開発してきたが、ここ最近入ってきたもう一人の研究員ラクシャータとロイドの仲はもともとよくなかったが更に張り合っているようだ。間にいるセシルも研究になるとのめりこんで止める様子もないので特派の研究はいま二つに割れたような感じだ。しかし双方共に結果をだしていくのでどちらも技術開発の面では肩を並べている。自然泊り込んだり突然の実験を繰り返したりとますます研究に拍車がかかってしまうのだ。
事後処理や研究費の捻出などルルーシュの業務はただでさえ増えているのにアリエスの離宮に月に1週間ほど行くことも求められている。実験の許可の書類などルルーシュが一任されているものもあるのでロイドとしても本当はルルーシュには特派だけにいて欲しいともらしていた事もある。上司なのだからロイド自身でも出来るはずだが、他の部署との連絡や実験に必要な場所や装置などルルーシュのほうが上手に出来る。
「今日、ランスロットの飛行訓練をしたいんだよ〜最高速度と飛行時間の限界点とか〜あとは〜」
午後からスザクも軍の訓練から戻って特派まで来るだろう。それまでに実験の許可を得て、データ解析をして・・・きっと今日は帰れないかもしれない。遠い目をしてルルーシュは頷いた。
隙をみて冷蔵庫に放り込んだ食材を頭の片隅にスザクがやってきてからもロイドの暴走は続いた。スザクはロイドの作ったナイトメア、ランスロットの最高適合者だ。新機能もやすやすと操るスザクの腕はルルーシュも自慢したいくらいだ。スザクもアリエスのほうに行ってるだろうと思っていたルルーシュが特派にいて驚いていたようだが嬉しそうにルルーシュがオペレートするランスロットの実験をこなしていた。
『スザクしばらく上空に待機。どれくらいでエナジーフィラーが減少していくかモニタリングする』
スザクに通信で伝えるとパッと声だけだった通信が画面も映る。
『こらっ、エネルギーの無駄は』
音声のみの方が効率がいいと注意するがスザクはあくびれずルルーシュの顔を見ていたいと口にした。
『いいだろ、ルルーシュ。一週間会えないかと思っていたから』
『・・・まあ、空の上にいるだけじゃ退屈だろうしな・・理論上は15分ほどで2〜3単位減る予定だ』
『ふーん、あんまり長くは飛べないってことか』
新しい理論でまだまだ研究段階だ。いくらでも改善の余地はある。
『まあ、最初は飛べる事からだからな』
フロートシステムはまだ研究が始まったばかりだ。ナイトメアまで搭載するのは特派が初めての試みだ。
『そういえば・・・明日、俺の誕生日だろ。俺ルルーシュに欲しいものあるんだけど」
よく言うサプライズなどスザクには通じない。自分から欲しいものを言ってくるあたりスザクはかわらない。ルルーシュは懐かしそうにいまだ少年特有の傲慢さに笑みを浮かべた。
『欲しいもの?』
スザクは通信越しに頷いた。
『ああ、ルルーシュにしかもらえないものだ』
「怖いな・・・難しそうなものじゃないだろうな』
ルルーシュが肩をすくめると簡単なものだと笑った。
『俺が欲しいのは時間だよ。ルルーシュと一緒にいる時間少ないだろ。この頃』
あっさりと要求する。
『・・そう、だな』
スザクに言われるまでもなくルルーシュも思っていたことだ。
『側にいてくれるだけでいいから、一日位のんびり何もしない日があっても良いよな』
『・・・何も、しなくていいのか?』
ふと疑問に思って問いかけるとスザクがからかう様に男くさい笑みをうかべた。
『いいのか?色々やっても?』
はっと、実験中にこんな会話をしている事に気づきルルーシュは顔を赤らめた。
『ば、馬鹿。何を言ってる』
『大丈夫だろ、このモニタの会話他には流れてないし、ちゃんと上空でとどまってるから実験はやってるだろ』
スザクの言う通りなのだが、ルルーシュは赤くなった頬をなおすことが出来ず、うつむけた。
『そんなの屁理屈だっ』
くすくすと笑いながらスザクはモニター越しにルルーシュを見つめた。
『ルルーシュに言われちゃ後がない』
『ふん・・・スザク、もうそろそろ、エナジーフィラーの減少が』
ルルーシュの言葉を待たずにぴっという機械音がして残量が減った。それから間をおかずに減り続ける。
『残り3ゲージになったら降りて来い』
『了解』
仕事モードになった二人は真剣にデータに視線を戻した。
夜中。
そろそろ、日付も替わろうかという時刻二人は特派の施設を後にした。スザクの片手にはルルーシュが昼前に買った沢山の食材があった。ルルーシュも持とうとしたが、スザクが軽々と全て引き受けてくれた。もう一つの手はルルーシュとつながっている。
結局夜まで実験は続き、今日だけだった休みは引き続き明日ももらうことになった。
「ルルーシュ、ありがとう」
「なんだあらたまって」
スザクの感謝にルルーシュは当惑して答えた。
「これ、俺の好きなもの作ろうとしてくれていたんだろ」
食材をみればスザクの好物のデミグラスソースハンバーグとブリタニアでは手に入りにくい日本食もある。
「本当はキッチンに篭って夕食に出したかったんだが、ロイドに捕まった」
「でも、考えてみればよかったかも」
「何でだ?」
「だって、ルルーシュの手料理を独り占めできるだろ」
スザクの言葉に馬鹿が、とルルーシュは照れる。
「ルルーシュ、こっち向いてよ、それに今日は最初に聞きたいことがあるんだから」
手元の時計を見ると後数秒で次の日7/10に変わろうとしていた。
ルルーシュは繋がった手を硬く握り締めてスザクに向かい合った。
「おめでとう、スザク。産まれてきてくれてありがとう」
ルルーシュからスザクへ誕生日を祝う言葉だった。

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既刊ノーザンクロスの二人Ver.です。
スザク誕生日おめでとう!!