誕生日


オレンジ畑も、今は冬の始まりを迎えその真ん中に位置する道具小屋に見立てた地下施設。
普段は静かに落ち着いている空間に、今日は久しぶりに明るい声が上がっていた。

「ね、いいだろ、ルルーシュ?」
12月に入って「ゼロ」はまたもや咲世子に泣きついて休暇をもぎ取ってきた。とりあえず今回はそれを知らせるためだけに一回戻ってきただけなので、またもや15分間という休憩時間にも満たないような時間のため、慌しいが声は弾んでいる。しかし、一方のルルーシュと呼ばれた・・・本人はあくまでもL.L.と名乗っている青年は眉を寄せた。
「だが、この時期EUでの安全会議が・・」
「ゼロ」がもぎ取った休日は12月5日で、その日はルルーシュの誕生日だ。今も国の情勢に関わる身として多忙な事は分かっているがどうしても休みを取りたいといって、ゼロはよく行動を共にする現ブリタニア国の元首であるナナリーへ話を通した。
ナナリーもその日は、午前中は政務をへとあてているが半日は亡き兄を偲ぶために予定は入れていないらしい。非公式だが、日本にあるアッシュフォード学園にいってミレイなど生前のルルーシュを親しく知る者に会うらしい。そのために、午前中は日本の代表の扇との会談をして、翌日も富士へ視察にいくという予定だと教えてもらった。皇帝に自由時間などそんなこと許されるのかと言われてしまえばそれまでだが、ナナリーが兄の死を悲しんでいるのは彼女を知る皆が知る事実であり、せめて半日くらいは好きにさせてやりたいということなのだろう。しかし、彼女でさえも休みは半日だ。
対して「ゼロ」について知る者は、深く関わったものたちだけがゼロの正体を気づいている。ルルーシュ皇帝を殺した存在である彼もまた同様にルルーシュに並々ならぬ思いがあるだろうと知ってはいるが、この男は堂々とその日から3日間は世間には顔を出さないと宣言してきたのだ。
しかも国際チャンネルで放送されてしまい、その話を打ち合わせしていなかったルルーシュとしては苦い顔をせざるを得ない。最近は、ゼロの正体を知りたいと思う者もでてきたようで、ゼロの素顔をカメラに収めようという輩も多いのでルルーシュとしてはそれの対応もゼロの休日発言で急増しそうだと頭を痛めた。まずゼロは正義の味方だ。なのに、堂々と休日宣言とは何様だと言われそうだ。
「それは悪かったけど、ルルーシュ。僕たちいったい何日あっていないと思う?この一ヶ月、君に会えたのはたったの8日間で時間にしてみると今みたいにすぐ移動しなくちゃいけないからきっと24時間にも満たない」
「・・・・」
ゼロの仮面を脱ぎ捨てたスザクは、耐えられないと頭を振る。
ルルーシュとしては、いつでも通信は繋がっていたので、そこまで深刻とは思っていなかったが確かに、スザクのぬくもりをしばらく感じていないと思うのも事実だったので大きく否定できない。ついつい、やらなくてはいけないことが多すぎて、スザクと過ごす時間が頭から抜け落ちてしまっていた。
「とにかく、ルルーシュ。12月5日から3日間、君も休暇だから!じゃあ、僕はもう行くけど・・・」
ルルーシュのことを見てスザクはにこりと微笑む。当然のようにルルーシュの唇へキスをすると、仮面を持って二人でやっている「ゼロ」をするために部屋を出て行った。

++++

ルルーシュは、スザクが出て行ったほうをぼんやり見ながら、肩をおろす。
スザクが出て行ってしまった後は、本当はとても寂しい。
今回はスザクが、耐えられないと言ってきたけれど、いつだってスザクと一緒にいたいのは本当は自分のほうなのだ。だが。「ゼロ」のやるべき事は多い。休むことなど考えられない。スザクも自分も同じゼロなのだ。心をひとつにしている今、離れていたとしてもそれはしょうがないことなのだ、理性ではそう思っているのに心の奥では納得できない。
「いい機会じゃないか」
ルルーシュがぼんやりしていると、この部屋にいつのまにか入室したのか、今は緑の髪をおさげにしている少女がルルーシュの目の前のソファーに腰掛ける。
「C.C.・・・」
「ゼロは、世界にずっといられるわけではない。お前や、枢木スザクがそうであったように必ず誰かにその思いを引き継いでいかなくてはならないしな」
「まだ早すぎる・・だろう。」
C.C.の言わんとしている事はルルーシュも考えていたことではあるが、まだ後継者とも言うべき思想を継いでいくものなど育てられる状況でもない上に、世界はそれ以上に目まぐるしく変わっていく。
「ゼロは不可能を可能にするものなんだろう」
ふふん、と不敵に笑って少女は持ち込んだ雑誌を読み始めた。最近彼女は旅行雑誌を読むのが好きなようで、この作戦を練るための部屋は、彼女の私物の旅行雑誌が山と積まれている。
ソファーで仮眠を取っていたルルーシュの上に雑誌が雪崩を起こして舞い落ちてきたことも一度や二度ではない。しかも、何度片付けるよう忠告しても無駄だった。
「結局行きもしないのによくそんなに熱心に見られるな」
ルルーシュは、開かれたページに載っているお土産特集に一瞬だけ目をやってから言う。
「誰も、行かないなどといってないだろう」
反論するようにC.C.が顔を上げる。何冊も世界各地の雑誌を読み漁っているようだが、彼女はここ半年ほど遠出をしていない。ルルーシュほど行動範囲が狭いわけではないが、オレンジ畑から15キロ離れた町にたまにいっているくらいだ。ちなみにルルーシュは、でても、地下から上がってオレンジ畑の中で、散歩をする程度だ。ほぼ引きこもりといってもいい。
「わかった、旅行に行くことにしよう」
突然、思い立ったかのようにC.C.は立ち上がると、ルルーシュに偽造パスポートとカードを渡せと迫る。
「何を突然・・」
「フン、気を使ってやっているんだ。一週間ほどバカンスを楽しんでくるよ。悪いな、坊やが寂しくなってもそばにいてあげられなくて」
C.C.は半ば強引に必要なものだけ取り上げてから颯爽と出て行ってしまった。

部屋の中に一人になったところで、ルルーシュはそういえば、生き返って?から一人になるのは初めてかもしれないと思うのだった。
数キロはなれたところにはジェレミアの屋敷もあるし、アーニャもいる。
しかし、ルルーシュの生活の基盤はこの地下施設だ。
そこには、いつでもC.C.がいて、たまにスザクが帰ってきて・・・誰かしら人がいるのが当たり前だったのに、一人になるということがこんなにも心にぽっかり穴が空いたかのように寂しさを感じるのものなのだとは思っていなかった。
(いや・・忘れていた・・)
C.C.との会話や、スザクとの時間は自分の心にどれだけの平安をもたらしているのかとひしひしと実感するのだった。

++++

12月5日。
その日は、宣言どおり「ゼロ」はいなかった。
ギリギリまで仕事を片付けていたのか、先ほど咲世子から上がってきた報告書ではスザクがここ2日間不眠不休だったと書いてあった。
ルルーシュは、たどり着いた「ゼロ」の仮面をルルーシュの手ではずしてでてきた顔に笑いかけた。
「お帰り、スザク」
「ただいま。ルルーシュ」
スザク、という名前。
普段なるべく言わないようにしてしまったけれど、今ここにいるのはルルーシュだけのスザクなのだ。その存在が目の前にいる事にえもいわれぬ幸福感を感じる。

「ルルーシュ。はい、イチゴのケーキ」
スザクの満面の笑顔の前でルルーシュは戸惑いつつも、ここ数日、たった数日間とはいえ一人きりであったこともあり、安心感と嬉しさを感じていた。
「ホールで買ったのか?二人では食べきれないだろう?」
「あ・・そうだね。でも、切り分けてあるのより、美味しそうだったから」
スザクは、言ってルルーシュの目の前のテーブルにワンホールのケーキを置く。
赤い大粒のイチゴがふんだんにのったケーキ。
それに目を奪われるようにしてじっと見ているルルーシュをみてスザクは、もう一度にっこりと微笑む。
「ルルーシュ、今日、君が生まれてくれたという、かけがえのない奇跡に感謝を・・誕生日、おめでとう」
スザクの言葉に、ルルーシュは視線をスザクへと戻す。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので、ルルーシュは赤面してしまう。
「・・・スザク」
「・・?」
スザクの視線にルルーシュは微笑した。
「・・ありがとう・・・。俺も、お前が今この瞬間、そばにいてくれて・・・」
嬉しいよ、と最後まで言葉にはしなかったがスザクには意味は通じたようだ。
優しいキスがかえってきた。






だれかに、正義の味方に休みなんて必要なのかといわれてしまったとしても、
今作り出している新しい世界には、こんな幸せな日があってもいいのかもしれない、そう、ルルーシュは考えることにした。






ルルーシュ誕生日おめでとう〜〜〜〜〜〜〜!!!
我が家では今日ケーキを買ったのですが、「大きなホールケーキにしちゃったし・・せっかくだから、ハッピーバースデイのプレートつけてもらっちゃった★」といって、何気なく家族とケーキを食べました・笑