魔法のランプ4.


「スザクさん?」
案の定、ナナリーの部屋に入るとすぐにナナリーの声がする。
「ごめんね、ナナリーうるさくしちゃって・・」
「いえ。いいんです。ですが、どなたかお客様ですか?・・あ・・っ、あの、言いたくないのでしたら・・」
ナナリーがあわてて言い直すのを見て、スザクも見えなくてもとっさに手を振る。
「いや、違うよ。・・そういうんじゃないからっ」
スザクは、いいながらも隣の部屋にいる彼が、まさか自分の恋人と間違えられたと知ったら
怒るだろうなと思って苦笑した。
「・・スザクさん?」
「うーん・・ほんとは寝た方がいい時間なんだけど、ナナリーも来る?」
彼は説明をすると言っていたのだ。それにナナリーという第三者がいることでやっぱり夢だったかどうか
確認できそうだとスザクは思った。
「いいのですか?」
気になっていたのだろう。うれしそうな顔をするナナリー。
「うん、でもちゃんとこれは着てね」
動かせる上半身を伸ばしたナナリーに、厚手のガウンをかける。本当は眠る時間なのだ。
「はい」
元気よく返事をしたナナリーの頭をなでてから、スザクは慣れた手つきでベッドの横にある車椅子に乗せてあげた。

「お待たせ、ルルーシュ」
部屋に車椅子の少女を連れてきたことに多少驚きの顔を見せるルルーシュにスザクは告げる。
「この子は、ナナリー。僕の大事な家族なんだ。ナナリー、ここにいる人は人間とは違う魔人のルルーシュ。
びっくりするだろうけど、さっき、ランプから現れたんだよ」
ナナリーは、スザクの声をかける方向に顔をむける。
「そうか・・スザクの大事な人・・か」
どこか、泣きそうな表情をしているルルーシュにスザクは少しだ疑問を浮かべる。もしかして、
昼にあった少女が言っていたように、ルルーシュはナナリーの過去を知る存在なのかもしれない。
「えっと、スザクさん・・?」
しかし、ナナリーの声にルルーシュに声をかける前にとめられる。
ナナリーの少しだけ戸惑った表情。
「魔人・・さん・・・?ルルーシュさんは、そこにいるのですか?」
目が見えなくても気配に聡いナナリーの困惑の表情。
「え??」
「スザク、その少女に俺の声は聞こえていない。魔人の姿や声は契約者以外にみだりに人に知られないほうが
何かと楽だからな」
スザクが驚くと、ルルーシュはあくまで事務的に告げる。
「・・だが、まあ。スザクの大事な人ならばいいだろう」
しかし、ふと表情をやわらげるとルルーシュはナナリーの元まで歩いていく。
「こんばんは、ナナリー。夜遅くに失礼している」
「・・・あの、、ルルーシュ・・さん・・・・・こんばんは、ナナリーです」
ナナリーが今度は声も気配も感じたのかまっすぐルルーシュの方を見て話すナナリーの伸ばした手に、
ルルーシュの手が重なる。
「・・あ・・」
「・・・どうしたの?ナナリー?」
スザクは、突然涙を流したナナリーに驚く。そして、思う。やはり、ルルーシュはナナリーの過去に
関係しているのかもしれない、と。
「いえ。なんでもないんです。すみません、ルルーシュ・・さん」
「いや・・俺は別に・・それより、何か悲しいことでも?」
ルルーシュが聞くと、ナナリーは首を横に振った。
片手で零れ落ちた涙をぬぐってから、ニコリと微笑んだ。
「違うんです。・・・うれしいんです。・・・ルルーシュさんのこと、なんだか懐かしい気がして・・・」
「懐かしい、か。無理もないな。俺たち魔人は人間の望む姿になるから」
「・・そう、なんですか・・?その・・・お名前も?」
「俺に名はなかったから、この名前は、スザクが付けたものだ」
「え?・・・そう・・なんですか」
少しだけびっくりしたような表情でナナリーはスザクを見る。
「僕の、懐かしい思い出の人の名前なんだ」
スザクが教えると、いい名前ですねといってナナリーは笑った。
「さて、説明に入ってもいいか?」
二人がひとしきり納得したあと、それぞれスザクの狭い部屋に座ってからルルーシュの説明が始まる。
「まず俺がスザクと結んだ契約とは、俺を目覚めさせることが出来た者の願いを3つかなえるということだ。
ただし、契約には制約がある。まずは願い事には出来ないことがある。
第一に人の命に関わること。生き返らせたり、殺したりする事は出来ない。
第二に願い事を回数を変える事はできない。増やす事はできないし、逆に少なくすることも出来ない。
第三に、人の心を操る事はできない」
ルルーシュの説明は、簡潔に分かりやすいものだったがスザクがしばらく悩んでしまう。
「難しいな・・願い事はすぐ決めなくてはいけないのかな?」
「もちろんすぐでもいいし、時間を置いてもいい。ただ、基本的に願い事をかなえるまで俺はスザクの元を離れ
られないことになっている。」
「え?」
ルルーシュの言葉にびっくりする。
「まあ・・・さきほどのように同じ建物内の隣の部屋くらいは構わないが、外出するときは行動を共にする必要が
あるな」
「行動をともに・・ですか。だから普段は先ほどのように、姿も消して、声も聞こえないようにする必要があるんですね」
ナナリーが納得したように頷いた。
「え・・ちょっとまって。行動をともに・・って、普段はランプの中にいるんじゃないの?」
スザクが確認すると、ルルーシュは憮然とする。
「ランプの中にいたら、お前の願い事を聞きそびれてしまうかもしれないじゃないか。
だから、悪いが、願い事をかなえるまでは同じ部屋に同居させてもらうことになる」
「ええっ?!」
スザクも、他の誰かが突然同居すると言い出しても、あまりそこまで動揺するようなことでもなかったが、
ルルーシュは自分の初恋の人に似ているのだ。いや、ほとんど本人だといってもいいような容姿なのだ。
「えっと・・・隣の部屋なら平気なんだよね?じゃあ、僕が隣にいくからルルーシュはここ使ってもいいよ」
ナナリーの部屋と反対側の隣の物置でもまあ、眠れないことはないだろうと思い、苦し紛れに言うと、
ルルーシュは不思議そうな顔をした。
「ここはお前の部屋なんだろう?お前が出て行く必要がどこにある。どうしても、俺がいて邪魔のようなら
眠るときは俺の姿が見えないようにという願いも受け付けるが・・」
どこか怒ったような表情でルルーシュが提案する。
「では、スザクさんが一緒がだめなら、私の部屋に来てもらってはどうでしょうか?」
ナナリーの提案にスザクは首を振った。
「いや・・それは、だめだよ。・・ルルーシュは、僕の部屋で寝てもらうよ」
スザクが言い切ったところで、ナナリーは少しだけ残念そうな表情をしてから、「そうですか」という。
「決まったようだな。・・さて、願い事は何かあるか?」
「・・まだ分からないよ。とりあえず、今日はもう寝ようかな・・・」
なんだかぐったり疲れて、スザクが言うと、ルルーシュは分かったとうなずいた。
「では、私もそろそろ休みますね」
ナナリーも、もうとっくにいつも眠る時間を過ぎているのだ、お休みの言葉を告げる。
「おやすみなさい、ルルーシュ・・さん。また明日もお話してくださいね」
「お休み、ナナリー」
「じゃ、僕もすぐ戻るから・・」
スザクは言ってナナリーを隣の部屋へ連れて行く。いつもどおりにベッドへ抱き上げて布団をかけてあげてから戻ると、
スザクの部屋にはルルーシュが、ぼんやり座っていた。
「ルルーシュ?」
「・・ん・・ああ。スザク・・悪い・・・俺も久しぶりの外界で・・・・少し眠くなった」
「そのベッド、使っていいよ?」
いうとルルーシュは首を振った。
「いや、いい。俺はそこの天井を借りよう」
ルルーシュがいうか言わないかのうちに淡い紫色の光がルルーシュを包んでふわりと浮き上がる。
そのまま天井の片隅にハンモックのようなものが出現してそこに横たわる。
この部屋には眠る場所はそこだけだったので、自分のベッドに二人で寝るのかと思っていたスザクは少しだけびっくりしてから
安堵の息を漏らした。
(なんだ・・心配することなんてなかった・・)
「お休み、スザク」
「うん・・おやすみ、ルルーシュ。」
眠そうなルルーシュの声を聞いてから、スザクも自分のベッドへとはいるのだった。

〜続〜