魔法のランプ3.


(まずは、こんなランプでひとつどうやって運命を選ぶのか?)
家に帰ってナナリーと食事をしてから、自分の部屋に戻ったスザクは押しつけられたといっても過言ではないランプを眺める。
夜も遅い時間、ナナリーは隣の部屋で寝ている。あまり厚い壁でもないのでスザクはなるべく音をたてないように自分用のベッドに腰掛けた。
今でも、昼の出来事は夢でこのランプもただもらっただけのような気がする。
「・・あれ?」
しばらくじっと眺めても何の変哲も無いように思うが、もともとの持ち主のものなのか、ぼんやり紋章のようなものが見えた。
(きれいにしたらなにかみえるかな・・)
思いながらスザクは布でごしごしと磨くように擦った。
と、突然ランプそのものが光り出す。
思わず、目をつぶる。
暫くして、スザクはまぶたの裏に焼き付いたその光を感じなくなってからそっと目を開けた。
今も手に持っているランプは、先ほどの強烈な光ではなく淡い光を放っている。
「な・・なに・・」
しかし、異変はそれだけではなかった。
「・・君は?」
スザクの目の前には新たに人が出現していた。
今度も唐突に現れた人。
それは昼の少女とは違い、スザクと同じような年齢の少年だった。

そして、その姿はスザクが忘れられない人のものであった。

「おれはランプの魔人。」
とっさに飛び出た声に律儀に答えてから、スザクの目の前に突然あらわれた少年は深い紫玉の瞳をスザクへ向けた。
黒いマントの下にはすらりとした姿態。マントはどこか不思議だが、服自体は淡い藤色の貴族が着るような服を着こなしている。
(なんかイメージと違うけど、この状況って・・・アラビアンナイトとかいうやつかな?)
スザクは、夢を見ているのかと自分の頬をつねってみたが、痛かった。
「何をしている?」
しかし、スザクの行動が気になったのか少年はスザクの頬にある手に自分の手を重ねる。
(わ・・暖かい)
少年の手は思いのほか、あたたかった。見た目からしてもっと冷たいかと思っていたので、スザクは少しだけ動揺する。
「・・君の名前は?」
スザクは反対の手で、少年の手を押さえて新たに聞く。
「名?」
少年は、ふっと、笑う。
「名前はない。」
「え?」
「俺はお前たち人間とは異なる理と時間で生きている存在だ。名をもつ事も無い。俺は契約に従い、お前の3つの願いをかなえる。それだけだ」
淡々と説明する少年にスザクは再度尋ねる。
「じゃあ、君の事はなんて呼べばいい?」
今、契約とかなにか難しい事を言っていたがまず名前が無い状態と言うのはなんとも落ち着かない。
「お前の好きにするといい。なんなら便宜上お前がつけてもいい」
興味なさそうに言われて少しだけ困ったが、スザクはすぐに気を取り直して懐かしい存在を思い出す。
「じゃあ、僕が決めるよ
−−−−−−−ルルーシュ。
ルルーシュって言うのは、どうかな?」
スザクが名を付けると少年はまた少しだけ不思議そうな表情をした。
「?」
その音の響きをはじめてきいたと言う、表情。
スザクは少しだけ寂しくも感じつつ、にこりと微笑んだ。
「知らないよね・・大切な名前なんだ」
「そうか。でも俺が使ってしまって大丈夫なのか?」
少年の言葉はスザクを気づかうもので、そんな少年にスザクは好感を覚えた。
「うん。大丈夫。ね、ルルーシュって呼んでいいかな?それから、僕はスザクっていうんだ。」
未だににぎっていた少年の手をぎゅっと握ると、少年はああ、とうなずく。
「わかった、スザク、だな」
こくりとうなずくその表情はやはり、スザクの大切な思い出そのものだった。
「ところで、先ほどの質問に答えてくれないか?」
「質問??」
「ああ。さっき、なんでお前は頬をつねったんだ?」
本当に不思議そうにきいてくる少年、ルルーシュにスザクは笑い出す。
スザクにとって一般的に夢ではないかと確認する方法。
それは、ルルーシュからは、奇異の行動だったのだろう。
きょとんとしてから大きく笑い出したスザクに、ルルーシュは今度自分が馬鹿にされたと感じたらしい。みるみる不機嫌な顔になっていく。
「あははっ・・・ごめん、僕のもともとの国では当たり前の動作だったんだけど、確かにブリタニアや、他の国では一般的でなかったよ・・」
もう、名前すら残っていない祖国だけど。父から、同じ同郷のものから当たり前に受け継がれた動作。
「・・・・」
ルルーシュは、ただ黙ってスザクの答えをまつ。
「・・・夢かなって思って。」
スザクは夢じゃない事を確かめていたんだ、というと、ルルーシュは納得したようだ。
「そうか、頬をつねるというのは、夢かそうでないか判断する方法と言う事だな。ならそうと口でいえばいいものを。すぐに夢ではないと否定してあげたぞ」
一つ、情報を得たと言うように今度はすこしうれしそうな表情を見せる。
(ほんと、ルルーシュに似てるな・・)
スザクは今でもまぶたの裏に残る彼を思い出す。
黒い髪も抜けるような白い肌も、忘れられない紫も。
「そういえば、その姿って?」
なんで、記憶の中の彼に類似しているのか疑問におもってスザクが聞くとルルーシュはまたもや簡潔に答えた。
「この姿はおまえの望む姿だ」
ルルーシュの言葉に、スザクは、そんなに自分の心はルルーシュに逢いたかったのだなと、おもうのだった。
「ところで、スザク」
「ん?」
「そろそろこの手を離してくれないか?俺は今からお前に契約内容を説明する義務が有るんだ」
そのためには、ずっと手を握られているのは都合が悪いのか、ルルーシュはスザクにつながれたままだった手に視線を向けた。
「あっ・・ごめん。・・っと、ちょっと待ってて」
慌ててスザクはルルーシュから手を離してから、少しだけその説明を待っていてと言って隣の部屋へ駆け込んだ。
夜中にずいぶん大きな声で話してしまったのだ。きっとナナリーが不審に思っているだろう。
「その椅子すわってて」
スザクは、ちらりと言われた通り椅子に腰掛けるルルーシュをみる。
一瞬だけ、この扉を閉めたら彼が消えてしまうのでないだろうかという不安が過ったが、なぜだか大丈夫な気がして部屋をでるのだった。

〜続〜