いつか今在る君へ(ペーパー掲載分)


「う・・・ウン・・」
一瞬何かが焼け焦げたような匂いを感じてルルーシュは目を開けた。
そこには見知らぬ光景が広がっていた。
「・・・これは・・」
言いながら、一つ一つ自分の記憶を確かめる。
どこか曖昧ながらも思い出したのは、クロヴィスに見送られ飛行機に乗ったこと。そして、エリア11に到着するまでの数時間やることもなく用意された席で寝ていたはずだ。
(ここは・・・エリア11の政庁か?それにしては記憶が・・・)

「なんだ、起きたようだな?」
そんなことを思っているうちに見知らぬ声がしてルルーシュは身構える。
「おいっ、いきなり起きようとするな。お前怪我人なんだからなっ」
身を起こそうとしたら、力任せに止められた。その途端感じるのは痛み。
「・・くっ・・」
体ごと止めたのは、ルルーシュより5,6歳は年が低いだろう少年だった。ルルーシュの目の前で、茶色の髪がふわりと揺れた。ナナリーのような優しい色合いの髪に、目が奪われる。そして、まだ呆然としているルルーシュを支えるかのように体を起こすのを手伝う。
「ほら・・ゆっくり起きろ・・・お前、ニホンゴ分かるか?」
言われた内容はもちろんルルーシュは理解していた。しかし、ここで言葉を話すべきか迷ってしまう。彼が話しているのは、今は使うことを許されていないはずの日本語なのだ。
自分は政庁にたどり着く前に日本語を使い続ける反ブリタニア組織の団体に捕らえられてしまったのだろうか。
「・・・」
無言でルルーシュは少年を観察する。
Tシャツに短パン姿のその少年は、茶色の髪をしているがよくよく見ればナナリーのそれよりも濃い色をしている。天然パーマなのかくせ毛なのか毛先はくるりとはねている。大きな緑色の瞳。肌は、イレブン特有の象牙色。
「・・でも言ってる事は分かってるよな?」
少年の言葉にルルーシュは頷いた。
「少し・・は・・」
ルルーシュは、日本語をほぼ理解はしていたが、しばらく様子を見てみようと言う気になる。ルルーシュが片言ながら、日本語を話したことで明らかにホッとする表情を見せる少年。
「ここは・・?」
「ん?俺の家の離れだ。・・俺はスザク」
「スザク?・・」
スザクの名前を聞いてもルルーシュに思い当たる人物はいない。
「お前・・俺の事知らない?」
しかし、スザクは逆に驚いたようだ。
「ああ・・すまないが記憶にない」
ルルーシュが素直に謝ると、今度はスザクが聞く。
「お前の名前は?」
「俺?・・俺は・・」
言おうか少しだけ迷ってしまう。言ってはいけないという心の中で警鐘がなるのにスザクをみていたら気がついたときには名乗っていた
「ルルーシュ」
「ルルー・・シュ?」
スザクもそれこそ初めて聞いたというような顔をしてから、楽しそうに笑った。
「ルルーシュ・ね。お前、男なのに、女みたいな名前なんだな!お前、俺んちの家の山で倒れていたんだぜ。」
「・・ここは・・ニホン・・なんだろう?」
エリア11と言ってしまうと危険な気がして、聞くとスザクは当たり前だよと頷く。
「お前、もしかして記憶喪失ってやつか?」
「記憶・・・?そう・・なんだろうか・・俺は・・どうしてここにいるのか分からない」
「・・俺が山の中で見つけたときのことは、覚えてるか?」
スザクの言葉にルルーシュは首を横に振る。
スザクは少しだけ困ったような顔をしてから、頭をかいた。
「ま・・いいよ。とりあえず名前は分かってるわけだし、そのうち身元だって分かるだろうしな。それまで気にせずにここにいるといいよ。お前の事は、俺の好きにしていいって話もついてるし」
「??」
自分のことですでに話がついているようないい方にルルーシュが疑問を浮かべるとスザクは楽しそうに笑った。
「ルルーシュ、お前は俺が拾ったから俺のモノなんだ」
「は・・?」
猫や犬を拾ったというかのように無邪気な物言いにルルーシュはびっくりする。
「ルルーシュ、その名前も気に入ったよ。お前も特別に俺の名前を呼ぶのを許してやる」
「名前・・?・・・スザク?」
驚きつつも先ほど聞いた名前を反芻するとスザクは嬉しそうに笑った。
「ああ、そうだ。それから、歩けるようになってもこの家の中ではルルーシュの事は俺のモノってことで話がついてるけど勝手に外に出るなよ。今、外はあんまりガイジンに優しくないからな」
それだけ言うと、スザクは稽古があるといってルルーシュを一人残して外に出て行ってしまった。


***



ニホンにいる幼年スザクに囲われるルルーシュの話です。
皇族はいつものごとくクロヴィスは出てくる予定・・・