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元帝国の忠実な兵士であった男の経営するオレンジ畑の真ん中には、ある静かな館があった。それはオレンジと呼ばれた元兵士のすむ自宅ではなく、数キロ離れた隣家や近所の者たちには畑の作業で使う器具がおさめられた館なのだろうと考えられていた。しかしその館は外装からは考えられない最新の通信設備がある部屋が存在していた。

部屋にいた青年は一人黙々と今後の世界情勢の動きを確認していたが、そこに仮面をかぶった男が部屋に入ってきた。仮面の男の名は、「ゼロ」。
奇跡と、世界の平和の象徴である男だ。普通なら、彼のような目立つ存在が一民家に現れる事すら驚きだが、部屋にいた青年はいつもの事、と気にせずにパソコンの入力作業を続けていた。ゼロは象徴なので、仮面の中の存在は存在しない。同様にパソコンを扱っていた青年も元の名前は存在しなく、今はL.L.と名乗っている。
「ルルーシュ、君、また外に出たんだって?」
しかし、仮面を脱いだゼロはそんな事気にせずに、部屋の外にいた他の存在から青年の行動を伝えきいたのか文句を言う。ゼロである青年は、自分の不在の間、彼が外へ出る事をあまり良しとはしていない。
もちろん、彼の顔を誰にも見られるわけにはいかないことも大きな一つの原因だ。
「ゼロ、何度言えば分かる?俺の名はL.L.だ。ルルーシュと言う名の者はもう存在しない」
ルルーシュ、と呼ばれた青年は言って嫣然とほほえんだ。すこし顔を傾げたので黒い髪が揺れてことさら、彼の白磁の顔にある紫玉の瞳が強調される。
「それより、明日は大事な会議の予定だろう、正義の味方が休憩時間などとってどうするんだ」
きっぱりと告げて、彼の外した正義の味方としての仮面をデスクの上に置いた。
この部屋は、「ゼロ」のための部屋だ。
世界を壊し、世界を変えた青年の願いによってなされた世界。
人が明日へと向かっていけるように。
そのために二人で「ゼロ」になったのだ。
世界に向け、実際に人々の前に現れ行動を起こす「体」を引受ける存在と、世界を作るためにゼロの行動を決定付ける「思考」の存在として。
「君のつけた秘書の意見では、ここに40分滞在する事は可能だ」
「ふ・・咲世子にスケジュール調整させたか」
ゼロの行動は基本はここブレーンルームから一日、一週間の行動予定が決定され、送信される。しかし、実際の現場でのアクシデントを考え、ゼロには優秀な秘書として篠崎咲世子という女性がついてスケジュールの管理を行っている。
彼女はゼロの忠実な部下であったが、今回は泣きつかれたのだろう。
「体」であるゼロがこの館にきたのは実に10日ぶりの事であった。
たしかにこの館から続いているゼロ専用の秘密の地下通路を使えば、他国にも30分ほどで到着する事ができるだろう。明日の会議に支障は考えられない。むしろ、いつものように通信ではなく直接作戦を告げる事によってさらに計画も順調にすすむだろう。
ルルーシュは、少しだけ苦笑した。目の前の存在は、いつまでたっても、ルルーシュをルルーシュとして位置づける。それではいけないのだ、と何度言い聞かせても、一度インプットしたものは覆せないとばかりにルルーシュの名を呼ぶ。
「ゼロ、」
ルルーシュは、手のひらを差し出す。
それをみた仮面をとった、過去に枢木スザクと呼ばれていた青年は、窮屈なゼロの服の襟をあけ、時間が無いとばかりに性急にルルーシュへと体を重ねた。
「ルルーシュ、ただいま」
優しさよりも力強く抱きしめる。
「お帰り・・スザク」
ルルーシュもスザクの体温にほっと体の力を緩めて体を預けた。

†††

30分後、スザクは思う存分ルルーシュの髪を指にからめ、するすると抜け落ちる感触を楽しんでいた。髪で遊ばれるのはどうかと思いつつも、ルルーシュもスザクの暖かい手の動きに目を閉じてまどろんでいた。
「そうだ・・・ひとつ、指示を忘れていた」
「ん?」
思い出した事をルルーシュは後ろから抱き上げる存在を見上げながら言う。
「この動き、だ」
手の動き。ルルーシュは自分の手を徐に動かす。洗練されたその動きは知らず身に付けた独特の動作。
「・・・ゼロの?」
スザクが聞くとルルーシュは頷いた。
「今度の演説の時は、手はこう動かした方がいい」
「大げさ過ぎにならないかな?」
「いや・ゼロ、だろう。これくらいするさ」
「・・わかった。君が決めた事なら」
スザクは頷いた。
体を担当するスザク自身、ゼロとして行動する事によって考える事、考えなくてはいけない事はたくさん在る。あくまでゼロは二人で作り上げるものであるからだ。ルルーシュは、スザクが感じた事、思った事をよく聞き、ここから適切な指示を出す。
世界が今後どうなっていくのか、だれにもまだ分からないけれど、しばらくはゼロと言う存在が必要だと思われている今、スザクはずっとルルーシュの望んだ願いによりゼロを演じ続けるのだ。
人は、それを幸せと呼ぶのかどうかは分からない。
でも。
(そんな罰くらい、いくらだって享受できる)
スザクは、ルルーシュの唇へと静かにキスを落とした。


こうして、「ルルーシュ」という自分だけの存在を手に入れられたのだから。


終。




とうとう、最終話を迎えて、先ほど感想かきましたが、補足的にSSです。
C.C.様の命により御者やってるルルーシュのイメージからの妄想です。


すこしでも、楽しんで下さればうれしいです。